第5話 長崎防衛戦②
西暦2031(令和13)年2月16日 長崎県長崎市
それは、まさしく異形にして脅威の軍勢であった。
上空に展開するのは、宇宙船を思わせる造形をした大型船に、長大な翼を持つ巨大な航空機の集団。大型船の艦底部からは次々と人と蜘蛛を組み合わせた様な巨大な怪異が投下され、市街地に迫りくる。道路を四本の脚で踏み抜き、両腕より光線を発して建物を破壊しながら進む怪異の群れは、巨大航空機の主翼から投下される様に出撃する全翼機の支援を受けながら進軍していた。
そうして長崎水辺の森公園に降り立ち、出島の近くにまで差し掛かった怪異は、北と東の方角へ進もうとする。そうしてビルの合間を進んでいたその時、突如として砲声が轟いた。
「撃て!」
命令一過、各所に展開していた陸上自衛隊第4偵察戦闘大隊所属の16式機動戦闘車が吼える。今から15年前に開発され、74式戦車の代替として配備が進められてきていた16式機動戦闘車は、主力戦車にも対抗可能な105ミリ戦車砲を持つ装輪戦車であり、特にこの場合はその火力が求められていた。
不意打ちを受けた怪異はよろめき、次いで脚部の一つを105ミリ
「後退!後退!高射、迎撃頼む!」
車長は叫びながら砲塔から上半身を乗り出し、据え付けられている12.7ミリ重機関銃を撃つ。目視照準による対空戦闘は脆弱であったが、何も抵抗しないよりかはマシであった。そしてある程度まで下がったところで、敵航空機に数発のミサイルが飛来する。
撃ったのは、第4高射特科大隊に属する81式短距離地対空誘導弾であった。採用から半世紀も立つ旧式兵器であったが、それでも時速700キロメートル程度の航空機を叩き落とす事は出来た。そして敵機にとって不幸だったのは、迎撃してくるものがこれだけではないという事だった。
「撃て撃て!5年前の屈辱を忘れるな!1機たりとも逃がしてはならん!」
車長はインカム越しに叫び、16式機動戦闘車とともに行動する27式装輪対空戦闘車は複合式砲塔を指向。四連装発射筒に装填している27式近距離地対空誘導弾を発射する。
東アジア大戦で人民解放軍の雲霞のごとき軍用ドローンの空襲に辛酸を舐めさせられた陸上自衛隊が新たに開発した27式装輪対空戦闘車は、16式機動戦闘車の車体をベースに開発された共通戦術装輪車シリーズの対空自走砲タイプで、40ミリ機関砲2門と27式近距離地対空誘導弾を装備する複合砲塔を有する。その特徴からロシアの自走式対空砲システムに準えて『和製パーントゥイリ』とも呼ばれ、陸上自衛隊機甲部隊の防空を担う存在となっていた。
果たせるかな、27式装輪対空戦闘車より発射された27式近距離地対空誘導弾は敵機を次々と撃墜し、ようやく距離を詰めた機体も、2門の40ミリ機関砲から放たれる砲弾を浴びて破壊されていく。そうして空の脅威が排除された後、今度は自衛隊の航空戦力が現れる。
「全機、かかれ!あの空中艦隊を全て長崎湾へ沈めろ!」
田代の命令一過、第7飛行隊に属する20機の〈F-15EJ〉戦闘攻撃機は敵軍に向かって突撃。複数方向から攻め立てる。敵大型船は各所から対空砲火を放って抵抗するが、その照準は甘く、田代にとって回避など余裕であった。
「タイガー1、フォックス2!」
引き金を引き、99式空対空誘導弾を発射。マッハ4の超音速で飛翔する一撃は敵大型船の砲塔を吹き飛ばし、次いで加藤の機が船尾に向けて04式空対空誘導弾を発射。推進器を破壊された大型船はゆっくりと公園に向けて降下し始める。
『隊長、敵船降下を始めました!大型機からは対空砲火です!』
「間もなくパンサーも到着する!果敢に攻め立てろ!」
田代がそう指示を出す中、1機の〈F-15EJ〉が敵大型機に向かって突撃する。敵大型機は主翼下から4機の全翼機を投下して迎撃に向かわせるが、〈F-15EJ〉は主翼を翻して突撃を躱し、急旋回。1機を20ミリバルカン砲の射撃で叩き落としてから大型機へ迫る。
手始めに、99式空対空誘導弾を2発、機首のコックピットらしき部分へ発射。次いで後部の推進器へ04式空対空誘導弾を叩き込み、瞬時に1機を撃破する。墜落していくのを見る間もなく大型船へ迫り、艦橋や砲塔へミサイルを撃ち込んだ。その間にかかった時間は僅か3分。
「凄いな、あの機は…僅か数分で3機も落とすとは…」
「隊長、我々も急いで落としましょう。でないと長崎が完全破壊されかねません」
「ああ、そうだな」
田代は応じ、敵軍への攻撃を再開する。そして地上では、陸上自衛隊第16普通科連隊が地上に不時着した大型船の乗組員と交戦していた。
「撃て、撃て!デカブツはハチヨンで複数方向から撃て!キドセンにUAVも支援してくれている、一気に押し込め!」
中隊長は軽装甲機動車の車内で叫びながら指示し、上部に設置している重機関銃の引き金を引く。敵は何故か銃ではなく杖を持って、炎や雷、氷の塊を飛ばして応戦しているが、複数方向から放たれる銃弾の驟雨の前には無力であった。
巨大な怪異も、トルコで開発された〈バイラクタル〉無人攻撃機の対地ロケットと16式機動戦闘車の105ミリ砲の餌食となっていく。隊員らは脅威が排除されたのを確認すると、そのまま敵大型船へと突入していく。
そして空では、次々と巨人機が撃破されていく。相手は圧倒的な数と火力で容易に占領出来ると踏んでいた様だが、それを成すには余りにも驕りが強すぎた。そして日が暮れる頃には、空には空自の航空機のみが飛んでいた。
斯くして、『長崎防衛戦』は自衛隊の勝利に終わった。作戦に参加した者の中でも、第7飛行隊に属する〈F-15EJ〉パイロットの一人は、敵軍に一番打撃を与えたとしてトップエースに上り詰める事となる。
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