第4話 長崎防衛戦①

西暦2031(令和13)年2月16日 長崎県西部 長崎市沖合


 事態は、夜明けとともに始まった。


「レーダーに敵機を捕捉、福江島より凡そ20機が編隊を組んで接近中。攻撃の意図あり、直ちに迎撃せよ」


 遥々静岡県より飛んできた〈E-767〉早期警戒管制機から通信が入り、航空自衛隊第6飛行隊に属する10機の〈F-2〉戦闘機は攻撃体制を整える。


 今から30年以上前に開発された国産戦闘機である〈F-2〉は、東アジア大戦において、無人戦闘機を相手にした防空戦闘や、後半の中国艦隊に対する攻撃作戦で損耗し、戦後には僅か40機程度しか残らなかった。


 機体の再生産は難しく、経済再生策の一環で川崎重工業やスバル社と共同でF-15E〈ストライクイーグル〉戦闘爆撃機の日本仕様をライセンス生産する事を決定。アビオニクスや兵装に〈F-2〉のそれを用いる事で実質上位互換とも言うべき機体を仕上げる事となった。そのため、〈F-2〉のみで配備された部隊はこの第6飛行隊と首都圏防空を担う第3飛行隊のみであり、第8飛行隊と新編された3個飛行隊は〈F-15EJ〉で編制されていた。


「ついに動き始めたか…」


 コックピット内でパイロットの長田おさだ二等空尉は呟き、〈E-767〉と通信を繋げる。人工衛星が無くとも〈E-767〉自身からの通信でデータリンクは得られており、相手の動向は丸わかりであった。


「目標捕捉、攻撃準備完了」


『アウル1よりアーチャー各機、会敵まであと5分だ。警告を発しに向かった機はすでに迎撃を受けて敵対の意思を確認している。先制攻撃で叩け』


「了解…アーチャー1、フォックス2!」


 直後、主翼より2発の99式空対空誘導弾が投下され、空中でロケットモーターが点火。捕捉している敵機に向けて飛翔し始める。と直後、通信が入る。


『待て…敵大型機より複数の小型機の反応を検知!時速700キロメートルで接近中!ミサイルとは思えないぐらいに大きい!』


 その報告を聞き、長田は前を向く。と、真正面に複数の飛翔体が見え始め、そしてそれらは編隊を組んで迫りくる。それには東アジア大戦を生き抜いた長田にとって既視感のあるものだった。


「敵機、UAVらしい飛翔体を展開している!タイガーが福江島上空で出会った奴だ!各機散開し、1機ずつ落とせ!」


 10機は即座に敵を捕捉して、ミサイルを発射してからバラける。咄嗟に放った99式空対空誘導弾は敵に命中し、一気に10機が堕ちる。だが相手は未だに30機もいた。


「相手は数的有利を使ってサッチ・ウィーブを仕掛けてくる可能性が高い!速度で引き離しつつ、1機ずつ落とせ!」


 そう言う長田は後ろを振り向き、ヘルメットのバイザーに表示されるレティクルの内側に敵機を収める。そうして捕捉するや否や、引き金を引いた。


 〈F-2〉の主翼端に装備されている90式空対空誘導弾が切り離され、空中で点火。そして大きな弧を描きながら飛翔し、追尾してきていた敵機へ向かう。敵機は赤いレーザーを放って撃墜を試みたが、余りにも遅すぎた。


「次…!フォックス2!」


 次いで2発目の90式空対空誘導弾を放ち、目前を飛ぶ敵へ飛ばす。全翼機タイプの敵機にキャノピーらしきモノは無く、長田は6年前の空戦を思い返していた。


『アウル1よりアーチャー各機、敵編隊は長崎上空へ到達した。陸自と空自の高射群が対応を開始しているが、それでもかなりキツい!さっさと敵UAVを全て撃墜してくれ!』


「アーチャー1、了解した…!アーチャー各機、さっさとコイツらを落とすぞ!」

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