第3話 最初の接敵
西暦2031(令和13)年2月15日 長崎県五島市 五島列島福江島上空
九州は北西部、五島列島で最大の規模を持つ福江島の空に、七つの星に囲まれた虎のエンブレムが躍る。航空自衛隊第7飛行隊を構成する〈F-15EJ〉戦闘攻撃機は、威力偵察として五島列島上空に展開していた。
『ブルーバット3よりタイガー各機。正体不明の武装勢力は現在、福江空港に航空戦力を展開させて制空権の確保を目論んでいる。よって威力偵察の妨害を目論んでくるだろう』
戦闘機部隊のさらに高空を飛ぶE-2D〈アドバンスド・ホークアイ〉早期警戒機からの通信を受け、〈F-15EJ〉パイロットの
「これより降下を開始する。対空砲火が来る可能性を考慮しつつ、地上に出来る限り接近せよ」
『タイガー3、了解』
『ブルーバット3、了解』
平時と異なり、この場で墜落などしたら、正体不明の『敵』の捕虜となる可能性がある。2機の〈F-15EJ〉は慎重に降下し、J/AAQ-2
『なんだ、アレは…!?』
僚機の呟きに、加藤は内心で首肯する。九州本土と五島列島を空路でつなぐ福江空港の周囲には、異形の機械。人の上半身を蜘蛛の腹部や脚と組み合わせたかの様なソレらは、轟音を耳にするや否や、両腕に持つ2丁の槍の様なものを向けてくる。とそれを見て加藤は叫んだ。
「タイガー3、直ぐに上がれ!」
直後、機体を捻り、先程までいた空間を白い光が切り裂く。それを地上の異形が発した攻撃である事を加藤は理解していた。直ぐに上昇し、加藤は〈E-2D〉に連絡を入れる。
「タイガー2よりブルーバット3、攻撃を受けた。相手に戦闘の意志ありを確認!これより現空域から離脱する!」
『了解した…待て、地上の空港より飛翔体が出現。迎撃機と思われる。出来る限り交戦を避けつつ離れろ。離せない場合は自衛を許可する』
連絡を受け、加藤は顔を向ける。相も変わらず地上から対空砲火が上がる中、占領された空港から飛び立ったのは、アメリカ海軍が開発していたX-47B〈ペガサス〉無人攻撃機に似た、全翼機タイプの航空機。
その航空機は軽々と夜空に舞い上がるや否や、機首から赤いレーザー光を放ってくる。だが元々格闘戦で敵機を捻じ伏せる事を前提に設計された〈イーグル〉の機動力は高く、2機は捻る様に機体を飛ばしてその攻撃を躱す。
「敵機、攻撃を仕掛けてきた!速度で十分に振り切れる、
加藤はスロットルを上げ、急加速。F110ターボファンエンジンの咆哮にも似た駆動音がコックピットにも響く中、2機は速度を上げて敵機を引き離していく。そして10分が経ち、敵機は追撃を諦めた。
「やれやれ…面倒な敵が現れたものだ」
加藤はそう呟き、僚機も『違いない』と言葉を返す。この後、最初の接敵行為は日本国のこの世界における最初の戦闘として記録される事となる。
・・・
『五島列島は敵の手に落ちている、か…』
首相官邸地下、内閣危機管理センターの会議室にて、『代行者』は呟く。同じ場所にいる南原と矢口も同感とばかりに頷く。本来であれば突然の信じがたい事態として動揺するものだが、これほどまでに落ち着いているのには理由があった。
「『使者』からある程度の情報を得ていて正解でしたね。ともかくこれで、相手は明確に敵対の意志を示した。今後取りうる手段は間違いなく、本格的な攻撃でしょう」
「ええ…『代行者』、『セナトゥス』は今どうしていますか?ある程度のデータを手に入れていますが…」
『それについては心配しなくてもいい。一体何のために私が生み出されたと思っている、あと30分でシミュレーション結果と提案内容が完成する。有線通信が途切れていないのはまさに幸運だった』
その言葉に、南原は小さく息をつく。そして防衛大臣に顔を向けた。
「直ちに海上警備行動を発令。今後起こりうる可能性の高い有事に対して、即座に対応できる様にお願いします。6年前の悲劇は絶対に繰り返してはいけません」
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