第7話
翌日、森と佐藤は施設防護システムの江角を訪ねた。
会議室で待っていると、江角は部下の井上を連れて入ってきた。
「さぁて、いくらの見積もり持ってきてくれたかな」
「こちらです」
森は封筒を差し出した。
佐藤の緊張はピークに達した。
これで箸にも棒にも掛からなかったら、自分の社内に於ける信用は地に落ちるだろう。
そんな事を考えると手が震えた。
封筒を開き三つ折りの紙を開いて、江角と井上が金額を見る。
江角は一瞬目を見開いたが表情は変わらない。
佐藤は思わず手を握りしめた。
江角は、おもむろに井上の方を向き、言った。
「な、良い金額持ってくるだろう?」
「え、ええ。そうですね」
井上がうなずいた。
土俵には乗った。
佐藤は一瞬気が遠くなる感覚を覚えた。
「どうでしょうか」
森が言う。
「うん、良いね。でも、あとちょっと、ほんの気持ちだけ安くなんない?」
「どのくらいですか?」
「二百だけまけられない?」
「二百ですね。かしこまりました。書き直してきます。何時までに必要ですか?」
「今日中でいいよ」
「承知しました。有り難う御座います」
施設防護のビルを出ると、歩きながら森は佐藤に言った。
「佐藤君、やったな。お手柄だ」
「え、課長、後二百下げるって、約束して大丈夫ですか? あれ、ギリギリの指値ですよね?」
「大丈夫だ。おそらくあの金額が予算だったんだろう。ドンピシャだったんだ。君の見立ては正しかったんだよ。これは営業の勝利だ。江角さんは、しっかり九億を切ってしかも予算ピッタリの金額を見たから、あのセリフが出たんだろう」
佐藤は、江角が井上に言った、良い金額持ってくるだろう? と言う言葉を思い出した。
「でも、まさか予算ピッタリの見積書を上に上げるわけにもいかないから、二百だけ下げてくれと言う話さ。この話を分からない奴はいないよ。それにこの件はこれで取れたも同然だ、たかが二百で誰がガタガタ言う」
会社に戻り、精査部へ行った。
矢田を呼び、皆がそろったところで、状況を報告した。
提出した見積りが土俵に乗った事、おそらく予算ピッタリだったこと、後二百下げてくれと言われた事、それを受けてきたこと。
「分かった。八億九千三百万ね。それで見積出して。指値変更しとくから。矢田ちゃん、それでいいね」
稲木は言った。
矢田も了解した。
「お手柄だ」
稲木は佐藤に言い、軽く肩を叩いた。
それから綾川に報告すると、
「よくやった。あとは江角さんの戦いだな。施設防護、大騒ぎになるな」
そう言って笑みを浮かべた。
佐藤は見積もりを作り井上へ届けた。
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