後半

 母は2020年から全盲の両耳難聴である。2024現在、幸い補聴器で、耳の方は両耳とも底上げを図り、人が視力矯正をして両目1.5になるような感じで普通レベルにまで調整をすることができたようだが、聞こえ方は録音のデータを再生するような感じらしい。人の耳はかなり良くできていて、誰かが会話を始めた際、その人に絞ると、他の音よりその人の声をより聴くようにできる。しかし、補聴器の場合、それができない。それに加え、母は同時に全盲になったため、どの人がしゃべっているか、あたりをつけることができない。なので、人とのコミュニケーションには難がある。


 母の現在いる世界は真っ暗で、補聴器をつけていないときは、さらに無音となる。 

 本人もつらいかもしれないが、私もうんざりである。なぜなら、母が同じことばかり、繰り返ししゃべるからだ。しかも、坂上家のことばかりしゃべる。

 坂上翔逸、知ったことか。

 私が物理学科に入ったって?そうそう、大昔ね。別に好きで入ったんじゃないわ。

 私がBaBaAに似てるって?とんでもない。あんなのに似てたら、人生終了。


 この母は最早、片づけができない為、既に他界している父の遺物も合わせて、私一人が家のガラクタを整理する羽目になっているのだが、その最中、父の所持品の中から唐突に、1枚の写真が出てきた。いや、何この人、私そっくりじゃん。

 女学生の制服らしきものを着たその人は、確実に、若阿比佐、私の父方の祖母である。父はなぜ、私に生前、祖母の写真を見せなかったのだろう。坂上家の勢力の強すぎる処に、私が若阿家そのまんまの顔と言い出せなかったのかもしれない。


 私は生物を専攻しなかったから、遺伝については詳しくない。しかし、会ったことはないけど、若阿比佐の血が濃いことは明らかだ。 


 「なんで、夢みたいなのが、できるのかしらね。」

 BaBaA、今、答えをあげるよ。

 「それは若阿比佐の血を引いているからだね。(あんたの血じゃなくて)」

 坂上家のいとこたちは、物理学科を受験したが、誰一人、私以上の大学に入っていないよ。いわゆる偏差値的に。

 私は、既に人生終盤、偏差値の高い大学に入った方が幸せだなんて思ってもいないが、売られた喧嘩は買う方だ。あんたの基準でも勝たせてもらう。


 ついでに、坂上翔逸さんよ。

「ああ、この私の脳を、夢に、全てそのまま渡せたらいいのに。」

「そんなポンコツいらねえ。私には、私の素晴らしい頭脳があるんだよ。」

 コピーに使われていいたまじゃねえ。


 そして、私は母の戯言を笑って流せるようになった。

「夢は誰に似ているのかしら。」

「そりゃ、若阿比佐一択でしょ。」

「会ったこともないのに?」

「会ったことがないから。」


 私は、若阿家直系。若阿比佐万歳!

 虐げられていた白鳥は一転、アヒルを蹂躙することにした。

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BaBaA-HISAに逢うまでのNIGHTMARE- 若阿夢 @nyaam

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