第15話 凛、少し機嫌を直してくれよ

 いつきりんにワインを注いだ。


「凛、少しは機嫌を直してくれよ」

 凛のむくれっ面も注がれたワインの赤い煌めきに照らされて少し和らぐ。


 肩まであるきれいな黒髪が夜風にたなびく。

 新米議員はすまし顏で一気にワイングラスを傾ける。飲みっぷりはもう一人前。

 樹は彼女を見つめてにやりと笑った。


「議員活動は順調みたいだけど、実際どんな感じなのかな? 困っている事とか無い?」


 凛は熱しやすいが、冷めやすい。典型的な投手気質かもしれない。ワイン一口でもう落ち着いている。


「至って順調よ。議会でもっと発言したいけど、時間が短くて」

「相変わらずエネルギーが有り余っている感じだな」


 美香も頷く。

「そうね。凛は攻めだるまだから、議会が熱く盛り上がっていいんじゃない。市長は温和な人だから凛みたいな人に質問されればいい刺激になるよ」


「まだ議員としては駆け出しだから、経験を積まないとね」と碧。

 凛以外は皆会社勤めなので、議員の仕事について多少なりとも興味があるようだ。  


 若くして政治活動を始めた同級生の元エースに、美香は興味と同時に期待も持っている。

「これからしばらくは注目の的になるからたいへんだと思うけど、凛にはバランスのいい、やり手の政治家に育って欲しい。まだ若いからプライベートも充実させないと持たないよ」


「美香を参考にさせてもらうわ。でもまずは自分がやりたい事に集中してみる」


 碧は凛の良さを良く知っている。


「凛の集中力とスタミナはすごいから、誰にも止められないよ」

「全くだ」

 樹が同意した。


 美香が今度は樹の方を向いた。


「話は変わるけどさ、樹のさっきの話だと新しい微粒子の開発って、もう実証実験ができる段階まで来ているの?」

「早くて来年、って言っただろう。まだ先だよ」


「でもなんか思ったより早いね。難しそうだから、もっと時間がかかると思っていたのに」

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