第6話 白岩 樹(いつき)

「ねえ、りんの方はどうなの? 市議の仕事ってどんな感じ?」

「うーん。まだしっくり来ないけど、色々な人と行政の話をするので勉強にはなる」

「勉強ねえ。凛の他に若い議員はいないの?」


「あまりいない。40歳台とか50歳台の男性が多いかな」

「おじさんばっかりだね。つまらなそう」

「遊びじゃないから」


「もう24歳でしょ。仕事は大事だけど、プライベートも頑張んなきゃ」

「それは美香も同じでしょうよ。アメリカ人の彼氏とかいないの?」


「いないわよ。さすがに出張中に彼氏は作れないよ。誘ってくるやつは時々いるけどね」

「もてるー、気を付けてよね。一夜の過ちとか」

「はっは。守りは硬いので大丈夫よ」 

「そうだった? とにかく帰ってきたらおいしいものでも一緒に食べましょう」


「そう言えば、いつきお坊ちゃまは元気なの? あなたのいとしの女房役」


 白岩樹しらいわいつきも同級生で同じ野球部のキャッチャーだった。

 凛とはバッテリーを組んでいた間柄である。

 彼の父親が創立した日本微粒子制御(JPC)という会社の若きジェネラルマネージャーとして働いている。


いとしじゃないでしょ、今は敵よ。あまり会っていないけどたぶん元気。」

「『敵』は言い過ぎじゃない? 温暖化防止活動の目的は私達と同じだと思うよ」


「美香違うよ。JPCが開発している粒子を散布して分裂させる技術はかなり危険なのよ。こっちに来たらその辺の話もしたいの」


「あらそうなんだ、不勉強だった。今度教えてよ。私も予習しておくから」

「ぜひ、お願い」


「凛、彼の会社に問題があるとしても、樹とプライベートであまり会わないのは少し寂しいんじゃない? 凛は今、他にいい人いるの? 坂井さかいとはいい仲だったと思うけど」


「知り合いばかりじゃない」


「面白いのに。あ、そうだ。樹もミーティングに呼ぼうよ。私が考えておく。凛のスピーチがぐだぐだだったら代打で起用するかもよ。ま、とにかくプライベートも頑張ってね。新人議員さん」


「面白がってないで。今は議員になりたてほやほやだからプライベートの活動はしばらくお休みするわ。もし美香がいい人紹介してくれたら考えるけどね。ただし日本人でよろしくね」


「わかった。いい日本男子を見つけたら紹介する。イメージは羽織の似合う50歳くらいの恰幅のいいおっさんかな?」


「おじさんは止めて。仕事だけで十分」


 3D映像は東京の夜景に切り替わっている。

 スカイツリーが3塔、光り輝いている。

 凛は通話を切り、二杯目のワインを飲み干した。

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