第5話 秋沢 美香(みか)

 議員の初仕事を終え自宅に帰ってきた凛は、上着を脱いでくつろいだ。

 

 窓側にオペラハウスの夜景やイエローナイフのオーロラが映る3D映像を流す。

 現地に滞在している気分でワインを飲んでソファーに体をあずけた。

 飼い犬のピートは既に丸くなって眠っていた。


 凛はふと思い立ち、昔からの友達である秋沢あきざわ美香みかに電話した。


「美香にコール」


 凛がつぶやくと、近くの空間にコネクション先(つまり美香サイド)の情報と映像が表示された。


 美香とは静狩高校の時に野球部で一緒だった。


 凛が女子ながらエースピッチャーであり、一方の美香は実質的な監督であった。

 公式にはマネージャだったが戦略立案と統率能力に優れていたためである。


 2人が3年生の時、静狩高校を中心とした地区連合チームは甲子園大会で全国優勝している。


「美香、おはよう」

「なあに、凛」

「まだNYにいるの?」

「いえ、今日はヒューストンに来ているわよ」

「来週は日本に帰ってくるんでしょ?」

「ええ、予定通りよ」

「もし時間があったら私のタウンミーティングに来ない?」

「いつ?」

「来週金曜日の夜7時から8時までよ。個人的にも話がしたい」


 美香はスケジュールを確認した。


「オーケー、大丈夫よ、行く。市内ね?」

「ええ、詳細情報は後で送るよ」

「ありがとう」


「ところで、DACの仕事はどう?順調?」


 美香は現在TSLジャパンという電源会社に勤めており、DAC(Direct Air Capture=二酸化炭素吸収装置)部門の営業技術担当である。


 その実績が買われ、最近では親会社があるアメリカへの出張が増えている。


「順調よ。新開発の小型DACの売れ行きが伸びているの。坂井碧さかいあおのところのより高性能よ」


 小型のDACはこれから普及が進むところであり、TSLジャパンと坂井碧が勤務しているT&Yティーアンドワイの二社が日本の市場で競いあっている。


「2人、いや2人の会社にはどちらも私、すごく期待してる。私も協力するからDACをもっと広めましょうね」


「そうね、野球部組で頑張りましょう」


 ちなみに高校時代、坂井碧も同じ野球部でショートを守っていた。

 彼は打撃、守備の中心選手であった。

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