第4話 滝林 唯(ゆい)9歳

 その小学校では朝の授業が始まった。


「四年生の皆さん、オンラインで出席の皆さんもおはようございます。今日の担当教師の岸本です」

 若い女性教師が元気よく話し始めた。


「今日は、教室に来ている皆さん5名とオンラインで4名が参加しています。欠席は2名です」


 ゆいが言った。「テツと幸一君でしょう」


「はい、そうです。先週テツ君が幸一君に意地悪をしたので、今日テツ君は公園のお掃除のお手伝いに行っています」


「わあ」子供達が沸いた。


「一方の幸一君は心のケアの為に、今日は学校を休んで自宅で好きな映画を見て良い事になっています」

「いいなあ」

「はい、皆さん。友達に意地悪をしない様に気を付けましょう」

「はーい」


「もう一つ、5月になりました。皆さんは平日に自由なお休みを3日取れますので、いつ休むか親御さんと相談しておいて下さいね。では授業を始めます」


 主要科目は生活、自然、社会、教養の四つである。

 岸本は一限目として社会の授業を始めた。


「今日は先月の復習です。今から百年以上前、つまり西暦2000年前後ですね、CO2を減らす取り組みが始まりました。しかしなかなか効率よく減らす事ができませんでした。今もですけれどね。ここは大切なところですが覚えていますか?」


 唯がすかさず答えた。


「はい、先生。それで気温が上がって台風の被害とか水害が増えたんですよね?」


「その通りです、唯さん。海面が上昇して海岸が減り、一部が水没したりもしましたね」


 男の子が付け足す。

「おじいちゃん家は昔、今海になっている所にあったんだって」


「そうですね。沢山の人が海面の上昇で土地と自宅を失いました」

「あーあ」


「でも温暖化で一番大変だったのは南の国の人達です。暑くて食べ物が作れずに人がどんどん減っていきました。ここも重要ですよ」


「人が減りすぎて無くなった国もあるんですよね」

「そうです。日本の人口もこの100年で半分になってしまいました。温暖化だけが理由ではありませんが」


「昔は一クラスに30人いたってよ」

「うわ、30人も? 多くない?」

「はい。皆さん、大体理解している様ですね。では小テストを行いますよ」


「えー、テスト?」一斉に非難の声が上がった。


 滝林たきばやしゆいは2111年生まれの9歳。とても聡明な子である。

 父、滝林ユージは外国にルーツを持つ優秀な警察官。

 妻を若くして亡くしており、男手一つで唯を育てている。


 ユージは自宅にいる時は唯に様々な知識を与え、彼女の才能を最大限に引き出す事に専念している。


 その日の夜の自宅での会話――


「お父さん、この間の選挙で選ばれた女の人って、うちの近所の人? 先生がそう言ってた」

「そうだよ。宮島みやじまさん、りんちゃんだよ」


「へー、凛ちゃんなんだ。今度、夜にこの近くに来るんだって」

「唯、そうだよ。タウンミーティングに来るんだ。当選のお礼も兼ねてね」

「私も行く」

「唯はよく世話してもらったもんね。いいよ。一緒に聞きに行こう」



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 ※小学校ではいじめ対策が厳しくなり、自由休暇も設けられてます。

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