第3話 坂井 碧(あお)

 21世紀から22世紀にかけて、地球は温暖化により異常気象や海面上昇が進んだ。

 特に気候変動による食糧不足、水不足が深刻化し、一部の食料は配給制となってしまっている。


 オアシスで凛が再び自転車に乗ろうとした丁度その時、偶然、傍に1台の車が停まった。側面にT&Yという会社のロゴが入っている。

 車から見慣れた顔の男性が出てきた。高校時代の同級生、坂井碧さかいあおだった。


「凛、グッドモーニング。もしかして今日が議員の初仕事かい?」

「そうよ。碧も仕事?」

「その通り。これからこのオアシスにフロート*を取り付けるんだ」

「そう、頑張ってね」


 凛はにこりと笑って言った。


「あ、あお。あとさ、次のタウンミーティングの準備、また相談に乗ってよ」

「いいよ、もちろん」


 碧は即答した。二人は社会人になった今でも時々行動を共にしている。


「じゃあ市長によろしく。凛が会うのかどうか知らないけど」碧が言った。

「もちろん会うよ。市長には私も言いたい事が沢山あるしね」


 凛は碧に手を振ると、自転車を走ら始めた。

 AIのアリーナが声を掛ける。


「凛さん、気を付けて行ってらっしゃい」

「はい。アリーナさん、ありがとう。またね!」


 凛は、広い道路を加速していった。

 新緑は山々まで続き、草原のような麦畑の穂がそよ風に柔らかく波打っている。


 首の長い美しい白鷺しらさぎが苗を植える前の田んぼに舞い降り、ひばりやうぐいすの優しい声がBGMのように奏でられている。


 老人が犬を連れてゆっくり散歩している。

 時折、雄きじの『ケーン』という声が青空に響き渡る。


 自然の中の一等地にポツンと学校と介護施設のコロニーが見える。

 りんも通った小学校だ。

 子供が数名、楽しそうに登校している。


 凛はその美しい顔に微笑みを浮かべながら周りの風景に満足し、風を切って自転車を走らせた。


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※フロート:物体を浮上させるための保安道具。水害対策である。

      ここでは洪水の時に建物が浮くように設置している。

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