第11話

 七月の半ば、どうせ死ぬならやってみようと思い、自殺したい人たちの一部で有名だった練炭屋さんから連絡が来るようなカキコミを、ボヤイターでしてみた。


 カキコんで翌日の昼には連絡が来た。やるしかないと思った。


 最初は一人でやる予定だったが、パパの電ノコやナイフが無くなっているのに気づいた兄に問いただされ、正直に話すと兄はすっかり乗り気になった。パパの解体作業を見ていて、自分もいつかやってみたかったらしい。


 集団自殺を行う予定の場所には、一度下見に行っていた。東京都下の古い屋敷が指定場所だったが、窓ガラスからも忍び込みやすいし、全員死んだところで中に入り、何個か脳みそ奪って逃げるのはそれほど難しいことではないと思った。


 ボヤイタ―でヤマダと繋がっているから事件後事情聴取を受けることにはなるだろうが、脳みそを奪った容疑が私にかかるとは思えなかった。


 空き家のようだったので、一階にあるお風呂場の窓ガラスの鍵を開けておいた。当日もし鍵が閉まっていたら、実行しないで帰ろうかと弱腰でもあった。


 朝11時集合で12時までに来なかったら待たずに決行するとヤマダのメールに書いてあったので、計画を立てやすかった。兄と屋敷近くの木の陰で待機。11時までに五人の男女が屋敷に入っていった。


 11時15分になると男の人の声が聞こえてきたので、部屋に近づいてみた。エアコンが動かないのか窓が少し開いており、古びたカーテンが風でかすかに揺れている。


 聞いていると残りの二人が来なければ五人で決行するようだ。一人は絶対に来ない。なぜなら一人はこの私だから。


 場所は応接間でソファなどは片付けられ、布団が七つ真ん中に置かれた練炭を中心にしてひまわりの花みたいに敷かれている。自殺は事前の連絡の通り、睡眠薬を飲み練炭で行うようだ。


 自己紹介が始まった。ヤマダ、笑研くん、白クジラちゃん、ギョウザ、ペシミストちゃんの顔や経歴についてはこの時知った。一通り自己紹介が済むと何人かがガムテープを持ち、窓やドアを塞いで行った。これで中の音は聞こえなくなった。


 玄関やトイレに繋がるドアを残して一通り塞ぎ終わると、化粧直しをしたり写真を見たり思い思いのことをし始めた。スマホはデータを全消去しておいてくるように言われていたので、見ている人はいない。


 ペシミストちゃんは、テーブルの上に何本か置いてある缶チューハイを思い詰めたような表情で飲み干した。


 12時まであと10分。


 ヤマダが睡眠薬のようなものと水の入ったペットボトルを配っている。さすがにみんな静かになって布団に寝転んだ。


 みんな最期の時に何を思っているのだろう。


 好きだったあの人のことか、パパやママへの感謝か、まだ自殺なんて知らなかった幼い日の思い出か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る