第10話

 様態が落ち着いてくると、女性警察官の事情聴取を受けた。あの事件で生き残ったのは私の他に、もう一人いたらしい。


 兄と一緒に全員死んだことを確かめたはずが……もしや首を切り落としたり、殺人を偽装したことも見られていたかもしれない。


「なぜあの屋敷にいたの?」


「自殺したかったからです。本当に怖かった……」


「ヤマダのことはどうやって知ったの?」


「ボヤイターでもう疲れたんで死にたいって何回かカキコミしてたら、練炭屋さんって人からメッセージが来て、それがヤマダさんだったんですけどいろんな相談にのってくれたんです。最初は自殺なんてしない方がいいって言ってくれた。でもそれでも死にたいって話をしていたら、それじゃ楽に死なせてあげるよ、友達もいるから怖くないよって話になって。それで日時と場所の連絡が来ました」


「その他の被害者のことは知っていたの?」


「集合場所で初めて会いました。みんないい人だったのに……」

 何人かは自分と兄で殺したはずなのに、なんだか本当に悲しくなってきて、突然涙ぐんでしまった。私はやっぱり狂っているのだろう。


「アレは全て、ヤマダが殺したの?」


「私が見ていた限りでは。でも睡眠薬でぼーっとしてたし、怖くてほとんど見てません」


 その他事件に関し思い出せることや、気になったことなどはないか聞かれた。一応兄や私が疑われないよう答えたつもりだ。話しているうちになぜか本当に悲しくなったのは、我ながら想定外だった。


 無残に殺された(殺してしまった)同世代の子たちが可哀想で泣いたのか、人を殺して脳を採取して食べないと死ぬ自分の境遇が、事件の興奮状態から突然不甲斐なくなって涙が溢れたのか。


 今回の「集団自殺現場で脳みそ頂き作戦」は、リスク高いし普段の私だったら絶対に手は出さない行動だった。


 でもパパと連絡が取れなくなり、七月初旬の時点で冷蔵庫の中の脳は、あと一ヶ月もつかもたないかだった。


 ここ数年は地方講演のお土産に、パパが女の人を大型トランクで持って帰ってきてくれて、その脳でしのいできた。


 元々パパは脳科学者で、研究後使い終わった脳をこっそり持って帰れたのだが、二年前に突然大学から解任されてからは、脳を自分たちで調達しなければならなくなってしまった。現在パパは脳に関する講演や本の執筆で生計を立てている。


 しかし六月初旬の講演に行ったきり、連絡が取れなくなった。事件や事故に巻き込まれていたらと思うとすごく心配だけど、捕獲したお土産と一緒かもしれないから、まだ警察に調査依頼はできない。親戚も頼れない。


 ママがソソウしちゃったせいで、母方とは絶縁状態。父方は認知症の祖父がいるだけ。

 

 私は焦っていた。手元の脳がなくなったら狂って死ぬ……。見えない死の恐怖に怯えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る