第6話 頬吸い

 自分で手を入れたからか、今日のカレーは大変美味しいらしく、食事中の歩くんはご機嫌である。こちらが聞いてもいないこと——学校のことや友人関係、好きな給食など——を懇切丁寧に教えてくれた。実に男の子らしい純粋で罪のない笑顔がとても眩しい。


 歩くんくらいの年齢の女子などは、欲望や嫉妬にまみれた恋愛感情を滲ませるものだが、歩くんはそう言った感情からはまだ自由でいられているようだ。

 あたしは頷きながら、対面の歩くんを自分の妄想の中で手籠にしている。揚げパンなんて懐かしい単語を口にしている歩くんの前で、あたしは白ブリーフの感触を思い出しているのだ。歩くんがあのブリーフを履いていると思うと、凄まじい興奮を覚えてしまう。


 一緒に皿洗いをしながら、あたしはとにかく歩くんの肌に触れようとする。暖房の効果は素晴らしく、無粋な長袖のパジャマも室温と洗いもののためにまくられている。あたしがふざけて肘で歩くんをつつくと、歩くんは寄りかかるように身を近づけてきた。あたしの使っているボディソープではなく、わざわざ歩くんママから聞いた普段使っている名柄のものを使用させた甲斐があった。歩くんの匂いがしてとても嬉しい。


「おねえちゃん」

「なーに?」

「楽しいね」

「そうね。楽しい、ね」


 拭いた手でお尻を軽く叩く。これくらいのスキンシップは男の子同士の無意識の接触と変わりがないらしく、歩くんは気にも留めない。あたしはそれを利用して、お尻のラインを確認してみた。——良かった。ちゃんと履いている。あたしは密やかな達成感を覚えながら、歩くんを後ろから包み込んだ。


 リビングでゲームをさせている間に、和室に入り、素早く布団を二人分敷く。歩くんママから預かった大切なお子さんに危険や不便があってはいけない。この行動は、決して邪な気持ちからではないのだ。


 夜のカーニバ、あ、いや、布団の準備を終えて戻ると、ゲームに飽きたのか、歩くんは目をシパシパさせながら、イノセントな瞳を潤ませていた。口を大きく開けてあくびをする。あたしはすかさず口の中を見る。まだ乳歯は残っているのだろうか。可愛らしい前歯を舐めたくなる感情に蓋をして、あたしは「もう寝ようか?」と歩くんに声をかける。


「ん-どうしようかな」


 歩くんは壁時計を見る。普段ならまだ起きている時間なのかもしれない。暖かい部屋は人を堕落させるのか、歩くんはパジャマのズボンをめくりあげると健全な素足をさらす。まだすね毛の目立たないつるつるとした脚にかぶりつきたくなる気持ちを抑えて、あたしは歩くんの横に座る。


「それなら、もう少し、遊ぼうか?」


 あたしは小賢しい上目遣いをして、胸元に隙を作る。歩くんは何気ない顔をしながらも少しだけ視線が下がる。――このむっつりさんめ。


「ううん。眠たくなってきたかも」


 あたしは何気ない自然な動作であることを自分に言い聞かせながら、手を差し伸べる。歩くんは反射的にそれを握り、あたしのエスコートを受け入れた。そのまま和室へと直行する。


 布団が二組あることに歩くんは違和感を覚えていないようで、先に歩くんを布団に入れると歩くんは「おやすみなさい」と言って、数分もしないうちに眠りの世界に入ってしまった。あたしはそんな歩くんの一方的な行為に戸惑いつつも、横向きに寝ている彼の頬に唇を近づける。別にキスをしたいなんて、そんな大それた野望を持っているわけではない。ただ、呼吸をしていると、、あたしの唇に彼の頬が吸いついてしまうのだ。マシュマロのようなふわふわな頬がいけないのだ。あたしは持ちうる肺活量を駆使して呼吸しているだけなのに、歩くんの頬がどうしてか唇に触れてしまうのだ。


 歩くんは寝つきがかなりいい方らしく、何も反応しない。長いまつ毛は時折動くも目を覚ます気配はない。あたしは存分に呼吸をして、彼の頬や

(検閲削除)などを、ゆっくりと堪能していくのであった。


(続)

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