第22話 おにいと一緒にカチコミ行くよ
……牙斗の子分がもうすぐ戻って来るはず。
あの女は強い。だから五貴のほうを先にやって人質にしてから、あの女を連れてこいと言っておいたが、うまくいっただろうか……?
「へっへっへっ、もうすぐお前の嫌いな女がここへ来るぜ。最初にどうするよ?」
「裸に剥いてボコってやるよ」
男が大勢いるここで裸に剥いて見せしめにしてやる。それからボコボコにぶん殴って、男に犯されるあの女を笑ってやる。そのときが待ち遠しい。
早く来い早く来い。
わたしは今か今かとはやる気持ちを抑えつつ、廃工場の出入り口を見つめていた。
「ちっ、おせーなあいつら。なにしてんだ? 電話してみっか」
牙斗が苛立たしげな表情でスマホを掴む。
「まさか……」
わたしの頭に嫌な予感が過ぎった。……そのとき、
グアシャアアアン!!!
不意に工場の屋上から大きな音が鳴り……
「えっ? うおおっ!?」
「な、なんだぁっ!!?」
見上げると、上から落ちてくるバイクが目に入った。
散り散りになって逃げる集団の中心にバイクは落ち、
ドグワアァァァァァン!!!
大きな音を立てて爆発する。
「な、なんだよ一体よぉ……?」
爆発したバイクを呆然と眺める牙斗の横で、わたしはハッとして出入り口へ目を向ける。
「いよー」
出入り口には獅子真が悠然と立っており、その隣には五貴がいた。
「それ、てめえらんとこのバイクだろ? 返してやるよ。こいつらもよ」
2人の人間が同時にこちらへ放られる。
ボコボコになって気を失っているその2人は、獅子真を連れに行かせた竜青団のメンバーであった。
「な、なんだてめ……」
「人に喧嘩売っておいてなんだはねーだろおい」
こちらへ歩いて来た獅子真を男たちが囲む。
「もしかしてよぉ、てめえが獅子真とかいう女か?」
「ああ? てめえみてーな半端もんのチンカス野郎に呼ばれるような気安い名前じゃねーんだよ。弁えろ三下」
「この状況でそんな啖呵切れるなんておもしれー女だな。おい、やっちまえよ。こいつに自分が女だって教えてやれ」
「ああ。へっへっへっ、こいつは想像以上に良いおん……ごぼぁっ!!?」
獅子真の蹴りで男のひとりが壁際まで吹っ飛ぶ。
「あたしはこのあと用事があるんだよ。つまらねーことくっちゃべってねーでとっととかかってこいよ雑魚」
「て、てめえっ!」
男たちがバットなナイフなどの武器を持って一斉に襲い掛かる……が、
「がぼっ!?」
「ごふぉっ!?」
「ぎゃっ!?」
3分ほどで全員のされて地面に倒れて呻く。
男たちは50人ほどいた。それがものの3分ほどで倒されてしまった。
この女は人間じゃない。
正攻法で戦って勝つなどできはしないと、わたしはこのときに悟った。
「あとはてめえだけだな」
残った牙斗へと獅子真が歩いて行く。
「あ、ああっ? 俺はボクシングのミドル級で新人王取ったことがあんだぞっ! 女なんかに負けっかよっ! おらぁっ!」
牙斗は近くにあるドラム缶を殴って遠くの壁まで吹っ飛ばす。
「へっへっへっ、てめえにはこんなこと……」
「ふん」
獅子真が軽い感じで殴ったドラム缶がコンクリートの壁を破って外へと転がる。
「は、はは……。に、人間かよてめえ?」
「麗しき花のJKだコラ」
指をゴキリゴキリと鳴らして獅子真は牙斗に近づく。
「おいボクサー崩れ」
「あ、ああ?」
「てめえお得意のボクシングで勝負してやるよ。こい」
「はっ、ボクシングってのは力だけじゃ勝てねーんだぜ? 技も必要なんだ」
そうだ。あたしも空手をやっているからわかる。格闘技は力ももちろん必要だが、技はそれ以上に重要だ。ボクシングでやればもしかしたら……。
「ならその技であたしにちょっとでも触れてみろ。そしたら負けを認めてやるよ」
「その言葉よぉ……後悔するなよてめえっ!」
ボクシングの構えを取った牙斗が素早いジャブを繰り出す。……だが当たらない。獅子真は高速のジャブをヒラリヒラリと軽い動きでかわしていた。
「ク、クソっ! 当たらねえっ!」
「こんなもんで元ボクサーだなんてよくイキれたもんだな。おらっ!」
「ごふぁっ!?」
獅子真の拳が腹にめり込み、牙斗が膝をつく。
「おら立て」
「う、ぐうう……ごばぁ!?」
立った牙斗の腹を獅子真の拳がふたたび殴打する。
「立て」
「が、あああっ! おぼぉっ!?」
今度は横っ腹を殴打。
たった3発を腹に食らっただで大柄な牙斗の脚がガクガクと震えていた。
「立て」
「い、いやもう……ごぶぉ!?」
膝をついて腹を抱える牙斗の顔面に拳がめり込む。
「ちょ、い、今はダウン中だから殴っちゃ……」
「ああ? それはてめえのボクシングだろ。あたしのボクシングは拳以外を使わなきゃなんでもありなんだよっ! おらっ!」
「ぶあぁっ!?」
さらに顔面を殴られた牙斗が仰向けに倒れる。
「ま、参りまじだ……」
「こいつは喧嘩ボクシングだ。参りましたもギブアップもねーんだよ」
「じゃ、じゃあどうしたら終わるんですか……?」
「てめえが死ぬかあたしが飽きるまでだよっ! おらっ! おらぁっ!」
「ぎゃあっ! ごばっ! ごべっ! ずいまぜんごあっ! ゆるじでべあっ! んぎゃあっ! べぎゃっ!」
マウントを取られた牙斗はボコボコに殴られる。
……やがて息も切らさず立ち上がった獅子真が振り返ってわたしを睨んだ。
「ひっ……」
こちらへ歩いて来る獅子真を前にわたしは腰を抜かして地面に尻をつく。
殺される。本気でそう思った。
「……けっ」
しかし獅子真はあたしを素通りする。
「てめえみてーなゾウリムシ相手にしてる暇はねーんだ。あたしは忙しいからよ。てめえはまた今度だ」
それを聞いてホッと……
「て思ったけどよぉ」
「えっ? きゃあっ!?」
ものすごい力で背後から服を引き千切られる。
「な、なにを……いやっ!」
全裸にされて手首と足首にダクトテープを巻かれたあと、地面に転がされる。
「今日はそれで勘弁してやるよ。おっと、ボコった男どもがそろそろ起きてくるかもなぁ。せいぜいやられーねーよーにきーつけな。じゃあな。あ、おにいお待たせー。早くヨネカフェ行こ」
「えっ? 今から行くのか?」
「うんっ」
「ちょ、ちょっとっ! 待ちなさいよっ!」
全裸でダクトテープに手首足首を巻かれたわたしを置いて、獅子真は五貴とともに去って行く。……その後のことは考えたくもなかった。
――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
ダクトテープに巻かれて放置された天菜はその後にどうなったのか? それはご想像にお任せします……。
たくさんの☆、フォロー、応援、感想が執筆の励みになっております! これからもよろしくお願いいたします!
次回は新たなヒロインが登場します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます