第23話 おにいの巨乳な後輩ちゃん

「今日はどこ行こうかー?」

「どっか行きたいところがあるのか?」


 下校となって校門から出た俺と兎極は学校の前を話しながら歩いていた。


「ううん。おにいと一緒にいたいだけ」

「俺と一緒にいてもおもしろくないだろ? 楽しい話とかできないし」

「好きな男の人と一緒にいるだけで女の子は楽しいの」

「す、好きな男の人って……」


 この好きってのは……兄妹としてってことだよな?

 だって俺なんて普通でなんの魅力も無い男だ。それに対して兎極は世界一と言ってもいいくらいにかわいい女の子。月とすっぽんどころか、うじ虫と太陽である。


 せめて幸隆くらい俺が格好良ければな。


 幸隆はイケメンでスポーツ万能。おまけに金持ちだ。男として俺が勝てている部分なんて無い。情けないことに……。


「うん? どうしたのおにい? なんか暗い顔して? お腹でも痛い?」

「あ、いや、大丈夫だよ。じゃあ今日はうちで勉強でもしようか」

「うんっ」


 満面の笑顔で兎極は頷く。


 昔のよしみで兎極は俺に懐いてくれているだけ。男性として俺を見ているわけではないだろう。


 変な勘違いはしちゃだめだ。俺なんて普通の男なんだから……。


「おい、なんかすげー美人が歩いてるぜ」


 不意にそんな声が聞こえ、たぶん兎極のことだろうなと思いながら首を巡らすと、周囲の人間は別の方向に目を向けていた。


「すごい美人だって。芸能人でも歩いてるのかなー?」

「さあ? ちょっと見てみようか」


 それほど芸能人に興味があるわけでもない。

 しかしこんなに近いのなら見てみようと、俺は兎極とともに人々の注目が集まる場所へと行ってみる。


 そこに歩いていたのは長い黒髪の女の子だ。上品で美しい顔も目を引くが、男としては目線を下げて大きな胸にも注目してしまう。


「あ、なんだ覇緒ちゃんか」


 逸見覇緒いつみはお。俺の一個後輩で、今は中学3年生だ。大人な雰囲気の綺麗系美人な上、大企業逸見建設の社長令嬢というお嬢様な女の子である。


「覇緒? ああ」


 覇緒ちゃんのことは兎極も知っている。なんたって覇緒ちゃんは……。


「あっ」


 覇緒ちゃんが切れ長の目をこちらへ向けて小さく声を上げる。そして、


「あ、ああ……姉御ーっ!」


 そう叫びながらこちらへ小走りに駆けてきた。


 姉御とはもちろん俺ではない。


「姉御っ! 帰ってこられてたんすねっ! お会いしたかったっすーっ!」

「うん、ひさしぶり。てか姉御はやめてよ」


 覇緒ちゃんは小学校の2年生のときに、3年生だった兎極に憧れて舎弟(自称)になった。兎極のほうは舎弟とは思っていないようだが。


「なに言ってんスか姉御っ! 姉御は姉御じゃないスかっ! てかなんで帰って来たこと教えてくれないんスかっ! ひどいじゃないっスかーっ!」

「うざったいからだよ」

「ひどいーっ! 久我島先輩も教えてくれたっていいのにーっ!」

「いや、仲良かったし、兎極のほうから伝えているもんだと」

「仲良くないし」

「ひどいーっ! えーんっ!」


 外見は大人っぽいが、中身はこんな感じで子供っぽい。そのギャップがいいという男もいる反面、逆にがっかりしたという男もいるとかいないとか……。


「あんた変わんないねー。少しは大人になりなよー」

「大人っスよーっ! 背だって姉御より高いですし、胸だって……」


 と、覇緒ちゃんは両手で自分の胸を持ち上げる。


「む、胸は姉御のほうがでかいかも?」

「ちょ、ちょっと覇緒ちゃん、人前だからっ。話ならえっと……そこのヨネカフェ行こう。ね?」

「おっすっ! ゴチになりますっ!」

「う、うっす……」


 まあ相手は金持ちでも後輩だからしかたないか……。


 と、俺は周囲の注目を浴びつつ、美人2人を連れてヨネカフェへと入った。


「……あ、これください。これも。これも食べたい―」

「よく食べるねぇ」


 テーブルについて店員さんを呼ぶと覇緒ちゃんは次々と注文をする。


 昔からよく食べるんだこの子……。


「お金、大丈夫かなぁ……うん?」


 財布の中身を眺める俺の服を兎極が軽く引く。


「わたしも半分出すから」

「う、うん」


 男としてはちょっと情けないけど、足りなそうなので助かった。


「あ、で、胸の話っすけど、わたしHカップ……」

「は、覇緒ちゃんっ! その話はもういいからっ!」


 この子は恥じらいが無いので困る。


「そうっスか? あ、姉御はこれからどこか行く予定とかあるんスか? カチコミ行くんスか? わたしも行きたいっスっ! うしろで応援するっスっ!」

「なんでカチコミ行くんだよ? JKがカチコミなんか行くわけないでしょ」


 半グレの溜まり場にカチコミ行ったけどね……。


「これからおにいとおうちデートの予定なの」

「久我島先輩とデート?」

「いや、デートじゃなくて勉強だろ?」

「一緒にいるんだし同じことじゃん?」

「まあ……」


 デートと言えばデートになるのか? やることは勉強だけど。


「えー姉御と久我島先輩じゃつり合わないっスよー」

「えっ? あー……そうだね。確かにおにいは素敵過ぎてわたしなんかじゃつり合わないかもしれないけど……」

「えっ? 違うっスよ。久我島先輩が姉御につり合ってないんス。姉御はすげー良い女っスけど、久我島先輩は普通じゃないっスか。不釣り合いっスよ」

「おにいがわたしに不釣り合い? くくっ……」


 覇緒ちゃんの言葉を聞いた兎極が小さく笑う。


「そうっスよ。姉御にはやっぱり難波先輩みたいなイケメンがお似合いっスよ。難波先輩ってスポーツもできて……マジ憧れっスっ!」


 覇緒ちゃんは中学のときから幸隆に好意を寄せている。しかし結局、告白はできなかったようだが……。


 今、幸隆は天菜と付き合っている。それを知ったら傷つくだろうし、言わないほうがいいかな。


「ま、あんたみたいな子供にはおにいの良さはわからないだろうね。てかおにいの良さをわかるのはわたしだけでいいけど」

「久我島先輩の良さってなんスか?」


 それは俺も知らない。


「口で言ってもわかんないよ。言えても教えないけど。と言うかあんた、難波ってあいつでしょ? あいつ工藤と付き合ってるよ」

「ええっ!? がーん。マジっスかー……」


 ああ言っちゃった。まあいずれ知ることかもしれないし、まあいいか。


「てか工藤先輩って久我島先輩と付き合ってたんじゃないんスか?」

「ああ、あいつとは中学卒業してから別れて……」

「おにいとあんなクソ女がつり合うわけないでしょ。月とすっぽん。いや、全宇宙とゴキブリの寄生虫だね」

「あはは……」


 過剰過ぎるほどに高い評価である。


「久我島先輩がゴキブリの寄生虫っスか?」

「殺されてーか?」

「す、すいませんっス……」


 ドスの利いた兎極の声に震えた覇緒ちゃんは、怯えた表情で頭を下げた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 イケメン好きの覇緒ちゃんは五貴には恋愛的な興味が無いので、兎極ちゃんのライバルにはならない……かも?


 たくさんの☆、フォロー、応援をありがとうございます! 感謝をしつつ執筆をしてまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします!


 次回は覇緒ちゃんを狙う悪者たちの思惑……。


 

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