第21話 半グレに襲われるおにい

「おはよう久我島君」


 登校して自分のイスに座ると、額に包帯を巻いた野々原さんが声をかけてきた。


「あ、おはよう野々原さん。頭の怪我は大丈夫?」

「う、うん。あのあとすぐ病院に行ったから。昨日はありがとうね」

「いや、ほとんど兎極がやってくれたし、俺はなにも……」

「けど久我島君が助けに入って来てくれたの、わたしすごく嬉しかったよ。だからありがとう久我島君」

「う、うん」


 まあ俺はなにもできなかったが、いじめはなくなりそうでよかった。


「なんかその、昨日の獅子真さん、なんかいつもと様子が違ったね。なんか怖い様子だったって言うか……」

「ああ、喧嘩モードになるとあんな感じなんだ。けど人が変わったとかじゃなくて、たぶん興奮してるだけだと思うから」


 本来の兎極は見た目通り穏やかだ。その分、喧嘩モードに入ったときのギャップには驚かされるが。


「あ、ダメだよ浮気はー」


 と、そこへ兎極がやってくる。


「わたしがトイレ行ってるあいだになに話してたの? 本当に浮気だったら許さないからね」

「う、浮気ってお前なぁ……」

「そ、そういうんじゃないよ本当にっ。昨日のことを話してただけだからっ」

「昨日こと? ああ、連中のことね」


 天菜はまだ来ていない。

 あいつのことだ。昨日の怒りが収まらず、俺たちの顔を見るのが嫌で今日は休むかもしれなかった。


「あいつらを退学にさせなくてよかったの? あんな奴ら学校から追い出しちゃったほうが俺は安全だと思うけど」

「それは危険だよおにい」


 と、野々原さんの代わりに兎極がそう答える。


「危険って?」

「退学なんてさせたら根に持って、退学になったあと野々原さんを襲うかもしれないじゃん。だから危険なの」

「あ、そっか」


 確かに連中ならやりかねない。


「事前に獅子真さんから言われて、わたしもそう思ったから退学にさせるのはやめたの。だからなにもしてこないならってことに」

「そうだったのか」


 野々原さんが判断したように見せて、実は兎極が彼女を守る最善の答えを考えて言わせていたんだなと俺は感服した。


「動画はあのバカ女どもの動きを封じる首輪になるからね。なにかしてきたら動画があることを言ってやればいいよ」

「うん。でもちょっと不安なこともあって……」


 と、野々原さんは表情を少し暗くする。


「あいつらさ、竜青団っていう半グレ集団と付き合いがあるの。仕返しにそいつら使ってなにかしてくるんじゃないかって……」

「そうなんだ。じゃあ潰しとこうか?」

「ええっ!?」


 兎極の言葉を聞いて野々原さんが驚きの声を上げた。


「わたしは半グレ集団なんて怖くないけど、おにいと野々原さんはあぶないもんね。潰しといたほうが安全かも」

「け、けどその半グレ集団って50人くらいいるらしいよ? 関わらないほうがいいって絶対に」

「50人くらいなら大丈夫だよ。暇を見て潰しとくから」

「いやいやあぶないからっ! あいつらだって退学が怖いから半グレ使って仕返しなんかしてきたりはしないよっ! た、たぶん……」

「まあ任せといて」


 半グレ潰しに自信満々の兎極。


 本当に半グレを潰す気なんだろうか?

 まあ、兎極なら容易くやれそうではあるが……。



 ……


 …………


 ……………………



 下校の時間となり、俺と兎極は一緒に帰る。


「駅前のヨネカフェ行こうよ。ねっ?」

「もうすぐ中間テストだろ。勉強しないと」

「勉強ならわたしがみっちりぎゅっぎゅと教えてあげるから」

「お、おうぅ……」


 腕に抱きつかれ、大きな胸に押される。


 でかい。柔らかい。


 こんな美少女にこれほどの巨乳がついているのはチートだ。抱きつかれなんてしたら男は従うしかなくなってしまう。


「わ、わかったよ」

「やったーっ! じゃあシルノワール食べよー」

「甘いもの食べると太るぞ?」

「わたしは食べても胸にいくからいいの。胸が大きくなったらおにいも嬉しいでしょ?」

「い、いや俺は……」


 もう十分におっきいしこれ以上は……いや、そうじゃなくて。


 嬉しそうに笑って密着してくる兎極に俺はタジタジだ。

 けどこうして兎極と一緒にいるのは楽しい。ずっとこんな幸せが続けばいいな。願わくば、兎極と恋人同士に……。


 そんなことを考える俺の背後からバイクの走る音が聞こえる。バイクの音は少しずつ近づいてきて……。


「あっ!? おにいあぶないっ!」

「えっ?」


 振り返ると、バイクは2人乗りをしていて、うしろのフルフェイスヘルメットを被った男がバットを振り上げてこちらへ向かって来ていた。


 男の持っているバットが俺へ向かって振り下ろされる……が、


「うおっ!?」


 振り下ろされたバットを寸前で兎極が掴む。

 バットを持った男はそのままバイクから引っ張り降ろされ道路を転がる。


「てめえ待てコラっ!」


 走り去って行こうとするバイクへ兎極がバットを投げる。


「ぎゃっ!?」


 バットは運転する男の背中に見事ヒットし、運転が乱れたバイクは転倒した。


「おいてめえどこのチンカスだ?」


 バットを持っていた男の胸ぐらを兎極が掴み上げる。


「い、いや俺は……」

「ああっ!?」


 兎極の拳がフルフェイスヘルメットの正面を割り砕いて男の顔を掴む。


「い、いいだだだだがぁっ!!!?」

「よくもおにいを狙いやがったなコラっ! このまま顔面ひしゃげさしてやろうかっ! ああおいっ!」

「あぐあああっ! やめて離してくれぇっ!! 顔が潰れるぅぅっ!!!」

「どこのチンカスか聞いてんだよっ!」

「りゅ、竜青団っ! 竜青団だよ俺たちはぁっ!!!」

「竜青団って……」


 それって確か野々原さんが言っていた半グレ集団のことか。


「ガキの集まりか。ちっ、たぶんあのクソ女だな」

「やっぱり天菜か」

「そうだろうね。おいてめえ、てめえらが溜まってる場所に連れてけ」

「えっ?」

「え、じゃねーよっ! 殺すぞコラっ!」

「わ、わかりました……」

「溜まり場に行って……どうするんだ?」


 まあ聞かなくてもわかるが……。


「売られた喧嘩を買ってあげるの」


 穏やかな表情でニコリと笑う兎極。


 ヨネカフェに行くのは明日になりそうだ。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 50人はもうちょっとした組織ですね。さて天菜のせいで大変な人間に喧嘩を売ってしまった半グレ集団はどうなってしまうのか……。


 ☆400を突破しました! ありがとうございます! 引き続き☆、フォロー、応援をよろしくお願いいたします! 感想もお待ちしております!


 次回は兎極ちゃん、半グレのアジトへカチコミに行く……。

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