第19話 とんでもない動画に驚く元カノ(工藤天菜視点)

 ……わたしは野々原に呼ばれて視聴覚室に来る。


「なんで視聴覚室なの?」


 自分たちを囲む複数のディスプレイを見回す。


 動画を見せるだけならスマホでいい。わざわざ視聴覚室に呼ぶ必要は無いだろう。


「と、撮った動画を見やすいようにしようと思って……」

「そう。まあいいけど」


 動画が手に入ればそれでいい。野々原の気配りなどどうでもよかった。


「それで動画はちゃんと撮れたの?」

「うん……」

「あはーっ。じゃあ久我島とヤッたんだ? あまちゃんのお下がり男とエッチしたんだ。あははーっ」

「命令されて男とやるとかあたしならぜってー嫌だな」

「はっ、汚い女」


 そう言ってわたしがクスクス笑うと2人も続いて笑う。


 五貴みたいな安い男と寝るなんてわたしなら絶対にごめんだ。まあこいつ程度には丁度良いのだろうと、クスクス嘲笑う。


 嘲笑われて野々原はなにを考えているのか、俯いて黙っている。


 見た目が良くて乳がでかいだけで男から人気があるなんて不愉快な女。こいつより獅子真のほうがムカつくけど、こいつはこいつで潰してやろう。半グレの男たちにくれてやれば、2日くらいで潰してくれる。


 こいつは動画を渡せばいじめから解放されると思っている。それが間違いだったとわかったとき、こいつはどんな顔をするだろう?

 そのときの顔を想像したわたしは、自分の表情から笑みを消すことができなかった。


「それじゃあ、てめえ早く動画を映せよな」

「うん……」

「視聴覚室で自分のセックス動画をお披露目とかよ、てめえ変態だな」

「あっははー。わたしだったら絶対無理。こんな大画面で他人にセックス見られるなんて絶対にいやー。そんなの売女じゃん。あははーっ」

「てめえは男とヤりまっくてる売女だろ」

「あははーひどーい。まあそうだけどさー。人にヤってるとこ見られるんなんていやー。わたしまだJKだしー。あははー」

「大画面で見てほしいって言うんだから見てやろうじゃん。五貴がへこへこ腰振ってこいつがあんあん喘いでる姿をさ」


 情けない顔で五貴は腰を振っているのだろう。見たことはないが、どうせあいつのモノなんて小さいに決まってる。それをおっ立てて、野々原へ向かって腰を振っている姿を想像するだけで笑える。


 そしてその動画を獅子真が見たらどういう反応をするか? 泣いたら最高だ。強がりを言っても最高だ。なじってなじってなじりまくってやる。


 大声でゲラゲラ笑いたい。だがまだそのときではない。笑うのはあいつの悔しそうな顔をじっくりと眺めてからだと、わたしは口内を軽く噛んで笑いを抑える。


「……映るよ」

「早くしなよノロマ」


 そう野々原に向かって吐き捨てたのと同時にディスプレイに映像が出る。映ったのは想定通り男女のまぐわいではあるが……。


「えっ? これ……って」


 五貴と野々原ではない。これは……。


「ゆ、幸隆?」


 男のほうは幸隆だ。女のほうは……。


「光里っ!」


 幸隆に抱かれて喘いでいるのは光里だった。


「なんであんたが幸隆に抱かれてんのっ!」

「えっ? いや、その……ちょ、ちょっとなにこれっ! えっ? あ……こっちはバルちゃん……」

「は?」


 別のディスプレイには幸隆に抱かれてる葉瑠斗が映っていた。


「葉瑠斗っ!」

「いやあのこれはよぉ、ノリっつーかなんつーか……」

「ふざけんなよっ! あんたらわたしが幸隆と付き合ってるの知ってるじゃんっ! なんで抱かれてんだよっ!」

「そ、それは幸隆君がさー。あ、こっちはあまちゃんと幸隆君のエッチ……」

「はあっ? てかなんでこんな映像あんのっ! 野々原っ!」

「……」

「なに黙ってんだよっ!」


 野々原の頬を思い切りぶん殴る。


「……うん? あはっ、なに睨んでるの? この牛女っ!」


 殴られて倒れた野々原を光里が蹴飛ばす。


「こんなもん持ってきやがってふざけんなてめえっ!」


 葉瑠斗も野々原を蹴る。


 光里と葉瑠斗はあとだ。まずはわたしらを隠し撮りなんて舐めた真似をした野々原を痛めつけてわからせてやらなければならない。


「あんた殺されたいの?」

「うう……」


 2人に蹴られている野々原の髪を掴んで無理やり立たせる。


「わたしら半グレ連中と付き合いがあるって言ったよね? あいつらにあんたやらせるから。こんな舐めた真似したんだから当然だよね?」

「……」

「なんとか言えよっ!」


 髪を掴んだまま、頭を柱に何度も打ち付ける。


「おらっ!」

「うぐっ! あがっ!」

「あ、あまちゃんっ。顔はヤバいってっ」

「あ? わたしらがやったなんて証拠ないでしょ? しらばっくれれば平気だよ」

「そ、そうかな? いや、でも……」


 額から血を滴らせる野々原を見て、光里がゾッとしたような表情をする。


「じゃああんたがこいつと代わる? 今わたし、あんたにもかなりムカついてんだけど?」

「そ、それは……」

「いいかげんにしろっ!」


 不意に視聴覚室の引き戸が開き、大声が室内に響き渡る。


「五貴……」

「あ、久我島君……」


 中へ入ってきた五貴は、わたしを突き飛ばして野々原の身体を支える。


「お前らこんなことして……」

「ふん」


 睨んでくる五貴に対し、わたしは鼻を鳴らす。


「こんなことして……どうするの? 教師に言う? 言えば? わたしらがやったなんて証拠無いでょ? てか、余計なこと言ったらこいつもっとひどい目に……」

「――証拠ならあるぜ」


 と、声が聞こえるのと同時にディスプレイの映像が切り替わる。


「えっ? こ、これ……」


 映し出されたのは、野々原を痛めつけているわたしたちの姿だった。


「ぜーんぶばっちり撮らせてもらったぜー」


 いつの間にか視聴覚室へ入って来ていた獅子真が、再生機器のうしろでニヤニヤと笑っていた。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 おまけで用意した隠し撮り動画で彼氏の浮気を……とはいえ、幸隆が女癖悪いのは承知なので今更ですね。しかし、下に見ている取り巻きとも浮気されていたのは天菜にとって屈辱でしょうね。


 いただいた☆、フォロー、応援は執筆活動の励みにさせていただいております。今後も☆、フォロー、応援をよろしくお願いいたします。


 次回はいじめの証拠動画を握られ、手も足も出なくなるいじめっ子3人衆……。


 

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