第10話 キレる元カノ(工藤天菜視点)
あームカつくムカつくムカつくあのチビ女っ!
幸隆とともに校舎を出たわたしは、イラつきを隠そうともせず強い足取りで地面を踏み鳴らしながら歩いていた。
しかしあの女、どこでママのことを……。
学校の誰にも言っていない家庭の秘密。
それをよりにもよってあの女に知られたのが最悪であった。
「あのかわいい子って天菜の知り合いか?」
「は? かわいい?」
ギロリと幸隆を睨みつける。
「あ、いや……天菜のほうがかわいいけどさ」
「当たり前のことなんかいちいち言わなくていいから。と言うか、あのドブスのチビがかわいいとか目ん玉腐ってんじゃないの?」
「あ、はは……そうかもね」
「ふん」
本当はわたしが美人の入学生として持て囃されるはずだった。しかし注目を浴びたのはあのチビ女だ。
――お人形さんみたいにかわいい。
――美少女過ぎだろ……。
――綺麗な絵が動いているみたい
――はあ……見惚れる
誰もかれもあの女を褒めるばかりで、わたしの話は誰もしていない。それだけでもイラついて頭にくる。
「ただハーフってだけじゃん。どこがいいんだかあんなクソチビ女……っ」
顔を合わせれば罵り合い。ひどければ殴り合う。本当に昔から大嫌いだった。
まず男子からの人気があるのが気に入らない。性格はあんなでも、かわいいからと学校の男子たちはみんなあの女に惚れた。わたしはいつだって2番手で、男子からの人気であの女に勝ったことは無い。
死ねばいいのにと何度思ったかわからない。
集団でいじめて自殺に追い込んでやろうとしたけど、わたしを含めた仲間全員がボコボコにされた。殴られた傷を理由に転校させてやろうと思えば、集団で囲んだときのことを録音なんかをしていて、逆にこっちが咎めれたんだったか。
あんな性格なのに、馬鹿じゃないのがもっとムカつく。
力でやっても頭でやってもやり返される。
いなくなってしまばいいのにとずっと思っていて、その願いが叶ってようやくいなくなったと思えば嫌なタイミングで戻って来た。
高校入学前に五貴と別れたのは失敗だった。
今でも五貴にべったりな女だ。恋人同士のままならば、悔しがらせることができたはずなのに。
狂犬みたいな女だが、なぜか五貴にはべったりで懐いている。五貴になにか悪口を言えば、烈火の如く怒って言い返してくるのは今も昔も変わっていない。
どうにかして五貴とよりを戻せないだろうか?
五貴とよりを戻してふたたび恋人同士に戻れば、あの女は悔しがる。大好きな五貴が大嫌いな女と恋人同士という状況は、あの女に苦痛を与えるはずだ。
そもそも五貴から告白をしてきたのだ。五貴はわたしにぞっこんのはず。頼めばなんでもやってくれたし、わたしの奴隷みたいなものだ。
戻って来いと言えばすぐに戻って来る。
五貴はわたしの犬だ。それをあの女にわからせてやる。
「なあ、このあとどうする? 今日、俺んち誰もいないし、今日はうちでするか?」
「はあ? あんたそれしか考えてないわけ? 毎日毎日さ。盛りのついた犬かっての」
「な、なんだよ? お前だって好きだろ?」
「まあそれはそうだけど……」
幸隆との関係はもう1年くらい続いている。
顔は良いし、家が金持ちでエッチもうまい。五貴とはキープで付き合ってたけど、そろそろ面倒になったので高校進学と同時に捨てたのだ。
しかしまた必要になった。
犬を手元に戻さなければ。
「今日は帰る」
「えっ? なんか用事あんの?」
「うん。また今度ね」
道の途中で幸隆に別れを告げて自宅へ向かう。
帰ったら五貴を呼び出して、よりを戻してやる。
それからそれを学校であの女に伝えれば、悔しがって負け犬のように喚くはずだ。
明日が待ち遠しい。しかしこのムカつきを明日まで我慢するのは嫌だ。いますぐ発散したい。
「丁度良いし、五貴をボコってスッキリしよ」
電話で呼べば犬のように従ってすぐに来るだろう。
あいつはどんなにひどい扱いをしてもわたしに従う奴隷で犬。
それをあの女にわからせてやる。
「ふふ、明日がた・の・し・み」
どんな言葉で喚いて悔しがるだろうか?
それを想像するだけで楽しい。
「けどあの女、五貴のどこがいいんだろ?」
顔は普通。頭も普通。金持ちでもない。
そういえば昔は野球をやっていて、運動が得意だったか。しかし今はなにもやっていないし、体育は並みよりはマシくらいだ。
つまらない凡庸な男。わたしにはつり合わない。
「ま、あの女程度には丁度良いのかもね」
そんなことを呟きながら、わたしはスマホを手に持って五貴に電話をかけた。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
兎極ちゃんに対する天菜の憎悪はかなりのものですね。しかしこの激しい憎悪が解消されることは無いでしょう。
☆、フォローをいただけたら嬉しいです。
感想もお待ちしております。
次回は殴り合いオラ。
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