第8話 おにいのクソったれな元カノとお話

 翌日の朝、学校へ向かって登校していると、


「おにい」

「わあっ!?」


 横断歩道の信号が変わるのを待っていると、横から現れた兎極が俺の腕へと自分の腕を絡ませてきた。


「おはよう。昨日ぶりだね」

「う、うん」


 信号が青に変わって横断歩道を歩く。

 兎極はギュッと俺の腕を掴んで組み、はたから見ればまるで恋人同士である。


「あ、兎極、そんなにくっついて歩いたらその……か、勘違いされちゃうよ?」

「勘違いって?」

「恋人同士に思われるとか……」

「わたしは構わないよ」


 そう言って兎極はますます俺の腕を自分の身体に密着させ……。


「お、おおうう……」


 柔らかい感触が腕から脳に伝わってヤバい。

 もうなんかボーっとしちゃって、ほとんど引っ張られるようにして学校まで歩いて行った。


 気付けば学校の前を歩いており、当然だが俺たちは生徒たちの注目を浴びる。


「うわ、マジかよ」

「大胆だなぁ」

「てか女の子めちゃくちゃかわいいじゃん。男は普通なのに……」

「クッソ、なんであの顔であんなかわいい子と付き合えるんだよ? 意味わからん」

「う、うらやましい……ゴクリ」


 ……やっぱりというか当然というか、俺たちは他の生徒たちに恋人同士と勘違いされてしまったようだ。


「あ、兎極……」

「今日はまだ授業無いから早く帰れるね。終わったらなにしようか?」

「えっ? あー……」


 学校が終わったらなにをしようか?

 それを問われた俺は、兎極となにをしようか考えながら校舎へと歩いた。


 ……そしてあっという間に帰りの時間がくる。

 教室から出た俺たちは誰もいない廊下を並んで歩く。


「じゃあ今日はおにいの家で勉強だね」

「うん」


 明日からは授業が始まる。それに備えて今日は予習をしようということになったのだ。


「予習だなんておにいは真面目だね」

「俺はあんまり頭良くないから、しっかり勉強しないといけいないしな」

「おにいはがんばればできる子だからだいじょーぶ。じゃあ行こ」

「うん」


 返事をした俺の手を兎極が引く。と、


「へー仲良いんだ。あんたたち」


 聞き覚えのある声が聞こえてうしろを振り返ると、天菜が腕を組んで不機嫌そうにこちらを見ていた。


「なんかべったりくっついて仲良く登校してきたんだって? あんたらって一応、兄妹じゃないの? 兄妹でベタベタして気持ち悪。まあ、親が離婚したからもう兄妹じゃないんだろうけど。てかお互いに2回も離婚するなんてね。そりゃあ親と同じで子供もふしだらになるってもんよねぇ」

「……っ」


 わざわざこんなことを言うために話し掛けてきたのか。


 俺はなにを言われてもいい。けど兎極や親を悪く言われるのは許せない。


 天菜の横暴にはずっと我慢をしてきたが、さすがに腹が立った俺はなにか言い返してやろうとしたが、


「なにしてるのおにい? 早く行こうよ」

「えっ? ちょ……」


 天菜に言い返そうとする俺の手を引いて兎極は先へ行こうとする。


「あらぁ? ずいぶんとおとなしくなったじゃない? 昔はわたしがなんか言うとギャンギャン言い返してきたくせにさ」

「あ、天菜……」


 そうだ。昔から兎極と天菜は犬猿の仲だった。

 ここでなにも言い返さないのは不自然に感じた。


「ようやく身の程を知ったってわけね。ふん。わたしよりブスのくせに昔は調子に乗ってさ。これからはおとなしく……」

「あ、おにい。なんか虫が鳴いててうるさいね」

「えっ? 虫?」


 虫の鳴き声なんか聞こえないが……。


「ぶっさいくなでかい雌の虫が鳴いてて本当にうるさいよ。たぶん発情期なんだね。あんな胸の無いクソ虫の相手する雄なんてよっぽどの物好きなんだろーけどよぉ」

「なっ……」


 兎極の目が天菜を見る。


 虫とは天菜のことだとは聞くまでもなかった。


「ああ、そういえばどっかの虫の母親は愛人作って蒸発したんだったか? どっちがふしだらなんだろうなぁ?」

「あ、あんたそれ誰から……っ」

「えっ? そうなの?」


 天菜の母親がそうだったなんて話は初耳だった。


「親がそんなだから娘のほうも男をとっかえひっかえする下半身のだらしねー女になるのかねぇ。ぶっさいくのくせにおモテになることで」

「あんたっ!」


 眉間に皺を寄せた天菜が兎極の胸倉を掴む。


「……てめえ、あたしの胸倉を掴むってことがどういうことかわかってんだろうな? おい」

「……っ」


 天菜も兎極がどれほど喧嘩が強いかは知っている。

 しかしそれでも、胸倉からは手を離さない。


「お、おいなにやってんだよっ」


 兎極の目が据わり、これは止めなきゃと声をかけようとしたとき、こちらへ慌てた表情の幸隆が駆け寄っ来た。


「女の子同士でなにやってんだよっ! ほら天菜、離せってっ!」

「……ちっ」


 幸隆に言われてようやく手を離す。

 しかし目は兎極を憎々し気に睨んでいた。


「ふん。彼氏のおかげで命拾いしたな」

「あんた……絶対に殺すから」

「そうかよ。ところでそこの彼氏さんよ」

「えっ? 俺?」


 兎極はニヤリと笑いつつ、幸隆に声をかける。


「こいつのママは愛人を3人も掛け持ちしてたらしいぜ。お前も掛け持ち君にされないように気をつけるこったな」

「てんめえっ!」


 顔を真っ赤にした天菜が兎極に飛び掛かろうとするも、咄嗟に動いた幸隆が羽交い絞めにして止めにかかる。それから俺たちへ早く行くよう目配せしてきた。


 それを見た俺は兎極を促し、ギャンギャンと罵詈雑言を喚く天菜を背にしてその場を離れた。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 最初の衝突は軽いジャブといったところでしょうか。今回は本格的な衝突を回避しましたが、このままでは収まらなさそうですね。


 ☆、フォローをいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回は2人でドキドキなお勉強。

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