参(特)
『生きていたんだね・・・お姉ちゃん・・・』
ゆらゆらと揺れながら進む籠の中コハルは、小さなか細い声で、姉のミハルが生きているかもしれないことの嬉しさと、今までの日々や想い、今の想いが入り乱れた悲しさに、1人、しくしくと泣くのであった。
-あの時のあの子。不思議そうに私を見つめるあの子。人間のあの子。僅かだけど、お姉ちゃんの匂いがした。心が落ち着く匂い。きっとお姉ちゃんは人間として生きていて、あの子に触れたんだと思う。真相はわからない。でもお姉ちゃんは生きているのかもしれない。そう思っただけでも私、凄く嬉しいんだ。
いつかお姉ちゃんに会いたい。話したい。触れ合いたい。そして何より、嫁入りなんてしたくない。-
そして、コハルは嫁入り道中の予行練習を終え、屋敷えと帰った。
屋敷に着くなりコハルは直ぐにお化粧を落とし、着替えて、自分の部屋に閉じこもった。
その日、コハルは一晩中目が真っ赤に腫れ上がってしまうくらい泣いたそうだ。
泣き疲れ眠りについてしまいそうな朝方4時頃、コハルの部屋の窓にコツンと何かが当たった。
コハルはぼーっとする頭を起こし、泣いて腫れ上がり、眠たく落ちそうな
窓から顔を出し、下を見ると、そこには狸がいた。
『迎えに来たぞ。』
狸はそれだけ言って、真剣な眼差しでコハルを見上げる。
『どうして・・・』
唇を噛み締め、また泣いてしまいそうな心を無理矢理に抑え込むコハル。
そして、コハルが狸に何かを言おうとした瞬間。
『くせ者!』
屋敷の誰かが狸の存在に気づき、騒がしくなった。
狸はそそくさとその場から立ち去った。
コハルの唇の端からは、口紅よりも真っ赤な血が、滴り落ちるのであった。
それ以来、コハルは部屋に引きこもる事が多くなり、明るく元気で活発な可愛い女の子だった姿から笑顔は消え、少しだけやつれ、まるで生気を吸い取られたような姿えと変わっていた。
一ヶ月と少しが経ったが今も変わらず、コハルに元気はないのであった。
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