雲一つない空から雨が降る。

初夏の暑さが雨で蒸し暑くなるかと思いきや、少し肌寒いくらいだった。

夕陽は沈みかけ、辺は薄暗く奇妙な雰囲気に包まれる。

ちらほらとあった人影も消え、静まり返り、不思議な空間に陽日は一人呆然と立つ。


耳を澄ませば


シャンシャン

ピー

ドンドン


鈴、笛、太鼓の音が聴こえ、近づいてくる。

音の鳴る方へ目を配る。


オレンジ色の淡い灯りが十数メートル一直線に並び、ゆらゆらと優しく揺れる。

近づくにつれその灯りは、灯籠とうろう提灯ちょうちんだとわかる。


列の一番先頭が何かの呪文のような言葉を唱え歩く。

列はそれについて行く。

列の中心には、人一人が座って乗れるサイズの木でできたかごがある。

かごには障子窓が付いており、ほんの少しだけ開いている。


その障子窓の隙間を覗けばそこには

この世の者とは思えない、それはそれはとても美しい和装美人が奥ゆかしい顔つきで座っていた。


その美人は、隠れ行列を覗く陽日を一瞬だけ黙認する。


そして、その瞬間、美しい紅色に染めた唇を少し開き、一粒だけ、大きな涙を流す。

行列は、陽日のことも、涙を流す籠の中の美人にも気づくことなく歩みを進め、陽日の前を通り過ぎる。

行列が過ぎ去ると、雨は止み、初夏の暑さが戻る。

行列は少し先に見える雨でできたであろう霧の中、静かに消えていった。



『・・・』


陽日はただ呆然とその場に立ち尽くすだけだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る