『はるひ!ねぇはるひ!放課後カラオケでもいかない?それでさ、夏休みにみんなでどこ行くかとかも話そうよー!』


小さい頃からの親友、夏子なつこに誘われたけど、正直、行きたい気持ちはあったがあまり気乗りしない...。

てか私はそれどころではなかった。


『ごめん。進路とか色々考えなきゃいけないこと沢山あって...親もうるさいしさ、先生にもある程度のことは早く決めておきなさいって。だから今日はパス!ほっんとうにごめん。』


私、天雨あまう 陽日はるひ は進路や将来のこと、恋愛などで悩み多きお年頃な、ごくごく普通の一般的な高校2年生の女の子。


そんな悩みの1つでもあり最大の謎、この髪飾りがなんなのか知りたいと思っていた。


『あの時見たあの綺麗なお姉さん...もう一度見たいなー。この髪飾り、絶対あのお姉さんのだと思うんだけど...拾ったのまずかったかな?この辺に住んでる人なのかな?』


ガラスでできた、瑠璃色と紅色のとても鮮やかなの髪飾りを陽日は丁寧にそっとカバンに閉まった。


そして、学校も終わり、陽日は1人で帰った。

帰り道、どこかお店にでもよって少し考え事と勉強をしようと思った陽日は、たまたま近くに小さな喫茶店を見つけたので足を運んだ。


『こんな所に喫茶店なんてあったんだ!なんかお洒落!』


喫茶店はレトロな雰囲気で客は少なく

どこか物悲しく切ないが落ち着く曲が流れており、挽きたてコーヒーの良い香りが漂っていた。


『ご注文は何になさいますか?』


喫茶店の歳は30代くらいで、髪は長く肌は白く、少し目付きが悪い様にも思えるが、顔のとても美しい女性店員が陽日に注文を聞いた。


『ミルクコーヒーとガトーショコラで!』


陽日はメニューをパッと見て悩むこともなく即答した。


『それより店員のお姉さん!お姉さんがこのお店、1人でやっているの?』


その綺麗な店員さん以外、他の従業員が見当たらなかったので、陽日は不思議に思い聞いた。


『はい、そうですよ!それでは、ごゆっくりどうぞ』


それだけ答え、店員はカウンターの奥えと行ってしまった。



私はその時、店員のお姉さんにあの時見た、髪飾りを落としたであろうお姉さんの面影をどことなく感じて、なぜか切なくて懐かしくて、心がきゅうっとなったんだ。

すごく不思議な感覚だった。



十数分が経ち、コーヒーとガトーショコラが陽日の元にきた。


『お待たせ致しました。』


あの美しい女性店員がそっと注文の品を陽日の目の前に置く。


『ありがとうございます!あの、どこかでお会いしたことありましたっけ?』


品を置いて少し陽日のことを見つめていた店員に陽日は尋ねる。


『いいえ』


店員はそれだけ言うとニコッと微笑み、またカウンターの奥えと下がっていった。



コーヒーとガトーショコラを口にしながら陽日は勉強をしていた。

とても静かな空間なので、他の客のヒソヒソ話がそこそこ聞こえてくる。

その中に陽日の気になる話があった。



『ねぇ、この前、本当にこっちは雨降らなかったの?』


『だーかーら、降らなかったって!隣町もそっちにいる友達も雨なんて降らなかった、晴れてたよって言ってたもん』


『えー、じゃあさじゃあさ、かごに綺麗な女性が乗っていて、その前後を大勢の人が連なって歩いてた、あの大名行列は見た???』


『そんなのも見てないし、そんなイベントも あったら、あんた以外にも見に来てるでしょ。』


『シャン、シャンて鈴の音は?笛とか太鼓とかの音もあった気がする!』


『だーかーら、そんなの知らないって、あんた寝ぼけてたんじゃない?』


『えー、そんなことないよー。』


と20代くらいの女性2人が話していた。




『あの!その話、少し詳しく聞かせてはくれませんか!?』


陽日は急に席を立ち、不思議な話をしていた2人の元に駆け寄った。


『えっと...いいですよ!』


2人は優しく、急に駆け寄ってきた陽日に話した。


どうやら話をしていた女性2人のうちの片方が、3日前の夕暮れ時に天気もいいから少し散歩をしようと外を歩いていた時のことらしい。




『歩いていたらね、突然雨が降り出したの!でも、雨雲1つもなくて快晴だったの!ね?不思議な雨でしょ?』


それが天気雨なんじゃないかと、女性の片割れと陽日はツッコミたい気持ちを抑え聞いていた。


『でもね、1番不思議なのは、、、雨が降ってちょっとしてから、笛や太鼓の音が聴こえてきたの。その音と共に日が沈んで辺が少し薄暗くなってさ、そしたらオレンジ色の優しい光がずらーっと並んで、よく見たらすっごい大名行列だったの!』


陽日はそんな女性の話を聞いて、小さい頃の不思議な出来事を鮮明に思い出した。



『あの、その大名行列の中心でかごに乗った綺麗な女性がいたって言ってましたよね?』


陽日は小さい頃にした不思議な体験と女性の話す不思議な話が同じだと確信し、髪飾りの女性について何か知っているかもと思い聞いた。


『うん!ちょっと近くに寄って、物陰からこっそり見たの!すごく綺麗な人がさ浴衣?の花嫁衣裳?で先の方だけをじっと見て...あれは結婚式だったのかな?』


まるで恋する女性の様にほっこりとした表情で話してくれた。

すると、陽日はカバンの中から髪飾りを取り出した。


『その籠に乗っていた女性、この髪飾りをしていませんでした?』


女性に髪飾りを見せる。

女性は髪飾りを見て少し眉をかしげ考えた後、大きな声を出す。


『あー!それ!そうその髪飾り!籠の美人も綺麗だったけど、その髪飾りもすごく綺麗だった!もしかして経験者!?』


驚きと興奮でテンションが上がる女性。


すると、カウンターの奥から喫茶店の女性店員が3人の元にやってきた。


『それはたぶん、じゃないかな?狐の嫁入りだとしたら、見た人に幸運や良縁が舞い込むらしいですよ』


微笑みながら教えてくれる女性店員。

そして、女性店員は淡々と狐の嫁入りについて話してくれた。

人が狐の嫁入りを見ると何が起きるのか、なぜ天気雨が降るのかと色々教えてくれた。

そして、花嫁がしている髪飾りがどれだけ大切なものかも教えてくれた。


『私も狐側のことはあまり詳しくないのですが、狐の嫁入りの大体はで、花嫁側の家に代々伝えられる物だとか、でも無くしたり捨てたりするとその結婚は破談となり、花嫁は酷い目に合うって聞いたことがあります。』


そんな話を聞いて、陽日の顔は青ざめる。


『私、この髪飾り...どうしよう...花嫁さんが...どうしよう...』


涙目になりながら慌てふためく陽日。

みんな心配になり陽日をなだめる。

すると、女性店員はそっと陽日を抱きしめた。


『何があったかはわからないけど、きっと大丈夫。あなたは何も悪い事はしていない。きっとその花嫁さんは、嫁入りするのが嫌で、そんな事をしたんじゃないかな?幼い貴方にすらすがりたくなるくらい。。。』


なにか含みのある言い方をしたが、女性店員の優しさ暖かさに落ち着きを取り戻す陽日。


そして、陽日が店に来てから3時間ほど経ち、6月の少しジメジメした空気が涼しくなり、空は綺麗なオレンジ色に染まる。

陽日は店を出て帰路につく。


狐の嫁入りや女性店員さんが教えてくれたこと、昔の出来事、色々考えて私の頭の中はごちゃごちゃだった。



そんなことを思い、考えながらも河川敷沿いを陽日はゆっくり歩いていた。



すると、ポツポツと晴天にも関わらず雨が降り始めた。




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