そこはかとなく氷解.2
――《アシュヴェルダ》…
闇人による名乗り。
闇人自身の口からなされたその者の《
それを告げたのが、闇人……もしくはそれに近い
いま目の前にいる闇人の
魂と魄の結びつき——不足のない
それは、その存在の本質を知らしめる
光のなかに見いだせる色彩のように印象的でありながら、
ゆがみとも指摘しきれないゆらぎ……
広く
なぜ、自分が……
セレグレーシュ自身が、こうして耳にするまでそれと気づけなかったのか…——
微妙な違和感。
腑におちない部分もあったが、そこに
――〔《アシュヴェルダ》〕…
……「《ヴェルダ》」……
あとのほうは、ずっと捜し求めていた人物が彼に
ぶれ無く、きっちり
そんな、予感がした。
いっぽうは、あくまでも人が使う音の
そういった
だから
セレグレーシュ自身がそう思いたいだけなのかも知れなかったが、彼が知っている《ヴェルダ》のほうが、たまたま同じ音を具えていたか、わけあってそう名乗ったか、
その人に
この流れで白状するという前置きのもとに明かしたのだから、きっとそう。同一なのだ。
まちがえたくなくて、
飛びつきたい
けれどもそれが、あまりにも
心なしか、
その時、セレグレーシュの両足は、地面にはりついたように動かなかった。
そうして思い返してみれば、無視できない事実……この状況にいたる流れもあったのだ。
(……そうなら……。そうだったのなら、どうして…!? ……)
自分がここに来たとき、なぜ名乗り出てくれなかったのか?
ずっと、そこに居たのなら…――
へらへら、らしくない笑いを浮かべて、遠巻きに姿を見せながら話しかけて来ようとしなかったのは?
自分がヴェルダを捜していた事実を——…
それと見いだせずに
セレグレーシュがこの家に住むようになってから、二年あまり。
その男は、承知しながら、ずっと観察していたのかと。
じわじわと疑念が
なにより、こんなふうに名乗られるまで自分が気づけなかったこと……確信できなかった現実が不可解に思えていたし、
きっと、いま
すでに、かなりまで改善されていて、その気になればいつでも
むろん、それらも無視できない過去で、なじりたい思い、
少しでも気が
いま、まっこうから責めたてると、変な方向に
場合によっては、その
きっと、
自分のことしか頭にない甘ったれ。
とりあうに
こんな状況にあってもセレグレーシュは、大切に思っていた友人――ヴェルダに避けられたり軽視されたくはなかった。
未練……なのかも知れなくても、その人には、これと
尊敬されたいわけではないが、自分が
存在としての価値を認められたいのだ。
なにより彼は、さほどに、その友人の事情を知っていたわけではなかったから……。
終わったことを責めるより、知るほうが先だ。
そう。
いま向き合っている相手がヴェルダその人で、大事にしたいと、
ただの
特別を言うには自分は、彼のことを知らなすぎるのだ。
それにいま。セレグレーシュがおかれている状況は、あたらず
相手は闇人で、ありがちな人間が持ち
信じたい……信じようとは思うのだが、その人の過去の行動…――セレグレーシュへの接しかた、そのあたりに秘められているだろう真意・思惑が不透明過ぎて、いつなにをされるかわからない危険性を
ずっと
それでも信じたかったし……。
少なくとも、ここで
闇人にとって、その事実は、決して軽いものではないはずで……。
狂いやゆがみのない正気の闇人――
反意があるなら、なおさらで。
(だから…。きっと、大丈夫だ……)
暴走しそうな感情を、ようよう抑えつけたセレグレーシュは、いま目の前にいる彼を捜していた人物だったと想定し、八割方そうだと受け容れたことで、その時、頭に浮かんだ疑問をぶつけてみることにした。
めいいっぱい背伸びして、
やらかさない失敗しないよう、
〔――そうなら…。…そうだというなら、なんで人間のふり
言葉にしてみると、こころもち
白い少年。アレンもそんなことを言っていたし、事実、彼がその人なら、気になる行動でもあったのだ。
〔オレ、(そう思いたくはないけど、甘ったれで…)ガキだったから。
闇人が嫌いだなんて言ってたけど、そんなのは、たぶん……思うようにならない苛立ちから出た底の浅い
どんなヤツかも知らないうちから嫌うなんてするわけないし、
(おまえが)…オレの知ってる「ヴェルダ」が闇人だったら……。そのまま受けとめるくらいの
ヴェルダは彼を助けてくれた恩人で、まともにできたと思った
ふり返ってみれば、一方的に
ふってわいた安全そうな存在……。
夢を現実にしたような
それと現実をつきつけられると、不本意なだけに
敵か味方かの見定めを
相手にとって、未熟な自分が
それでもヴェルダは、彼にとって気を
それも人間だと思っていたから、初めてできた人間の友達で……兄貴分と
大丈夫だと信じた……信じたかった――いや、信じられると感じた、かけがえのない存在なのだ。
その彼が、闇人であったなら、
はじめから、わかっていたなら、
近づいてきた理由に疑問をおぼえて、真意・目当てをたずね
そのうえで、目的や悩みを教えてもらえなくても……。答えてくれなかったとしても、きっと…。
そんな好奇心まがいのこだわりなど、
相談する内容も変わっただろう。
たびたび姿を消すことがあっても、彼が強いと……。
人間の
その
そうして思案する中に、ふと——セレグレーシュの
正しくは、相手の真名を聞いた時にはすでに覚えていた奇妙さ。
その事実の裏側に、
相手が人間ではなく、闇人だったなら、どうして、
いまの自分でも、本気で向き合っていれば、あり
ふつうに考えても大切に思っていた存在の
さほどに遠い過去というわけでもなく……。
たとえ、
直感的には、
それはきっと、
なんらかの
真名と照らし合わせてみても、
過去の発言から考えても、相手は向こうを知っている闇人だ。
多少、おかしな〝ゆらぎ〟があろうと〝確かな真名〟をそなえた存在で、混ざりの強い亜人や妖威、こちら産まれのその
ならば、自分は、確実に識別できる——したはずなのだ。
それなのに、みすごした。
無自覚なうちに気を
どうしても
(――…そうだ。あれは…)
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