枯れかけた木に花は咲くか.3
ゆらぐ生体を維持するだけでいっぱいいっぱいに思えた白髪の青年――
以前は、束ねられてはいても、伸びるままにされている印象だった頭髪が、こざっぱりと切り整えられ……。
不健康にふくらんでいた
成人そこそこの
正直なところセレグレーシュは、その人物がこの場にいるとは思っていなかった。
三年前の初夏。セレグレーシュが受けた印象では、その存在は、
生きてここにいるのが不思議なくらいなのに目の前の
外見的な変貌もとげていたが……それでも。
ありえない!! という――確信的な思いを胸に。
おなかの前。その人物の脚……
セレグレーシュの多色の
(なんで…。なんで、こいつが
ヴェルダは……ヴェルダは、自分の
命……。ヴェルダの命――…)
疑念を胸に立ち止まった彼の
そんなセレグレーシュをよそに。
ともにある二者の会話——情報のやりとりは継続されている。
「――東の《
「うん。《
先行していた講師はもとより。
セレグレーシュが足を止めたことで、となりにあった白い少年、アレンの肩も彼の
「北側は
「それは…《
「ふわ?」
「東の地に
周辺の海や空も
「あぁ、うん。(オレの里から見て)西な。
あそこは、南の方とはわけが違う。北にあるのに
むかしはその先にも人の住む町があって、オレの里みたいに雪が降ったって…。
でもいまは、命を
あったっていう町がどうなったのか、わからない。
誰が言いだしたのかもわからないけど、
南側も高い山脈と
《しゅろ》とかいう里、出てから《
じめじめして、嫌な虫も狂暴なやつもいて
変なものばかりで、なにが食べられるのかもわからなかったけど、そのへんは、スミレがいたから……。妙なものもよく食わされたけど、探せば、けっこう、食べられるものもあって…。
でも、あんなところ、フツー一般の人間は越えられないかも。
寄生されたら命とりになる
交流なんて無いようなものだ」
しばし、じっと耳をかたむけていたアロウィースは、
「うん。人にとって、危険なもの……(妖威まがいの)寄生生物が多いことは聞いている。(それにしても…)
青い双眸を
「存在することは言われているが、やはり、違うな」
「違うって…――オレ、
セレスだって、むこうから来たんだ(ひひらでも
ソファの間に配置されているテーブルを前に。その横合いまで進んだことで、自然、足を止めていたアレンの注意が、自分より遅れたセレグレーシュに流され、ちらとそのようすを捉える。
車椅子の男に気をとられている
「実際にそこに居たと主張する人間に会うのはこれが初めだからね(――冗談めいた
不思議はない。
いま目の前にいる君が、向こうでは多くの人間が生活しているようなことを言うからさ」
「ん。人間(は)しぶといからな。ピンチになると、子供もできやすくなるっていうし。ネズミやネコほどではなくても、繁殖力が違う――けっこう、あっけなかったりもするけど……。
でも、人里自体、そんな(に)多くないし、たぶん、こっちほど数はないと思うよ? 里の外は、なにが出るかわからないから内にこもりがちで、用もなければ
こっちみたいに大きいのも、
アレンがもっともらしく
「あまりじゃなくて、あったとしても知らない、でしょう? (
「うるさい。オレは主観で話してるんだからいいんだよ! スミレは黙ってろ」
「その呼び方、やめろって言ってるのに、いいかげんにしてよね」
返された抗議要求を意識的に無視したアレンが、車椅子に
「シナ、それ、
その言葉に、セレグレーシュがぴくりと反応した。
彼らをまとめて警戒するような、むっとした表情だ。
とうのアレンは告げるともなく、声をかけた青年と
ぎしり、めきめきっと、彼が腰を
「ちょっと!
だいたい、あんた、いつからそんなに口が軽くなっちゃったの?
(舌噛みそうになるとか言って、いつだって
もう少し、
「うるせ。聞かれたから話しただけだ」
「そこまで聞かれてなかった(と思う)よ?」
ロイスアドラー(アロウィース)が、テーブルを
「レイス。――君は
講師の問いかけにセレグレーシュは、わずかに視点を浮かしたが、車輪のついた椅子に腰掛けている青年から目を離すことはしなかった。
口は閉じたまま、
「紹介が必要かな?」
講師が確認するようにたずねると、一度は、ソファに腰を沈めていたアレンが、こうしてはいられないとばかりに立ち上がった。
「そうだった! セレス、シナを
視点をもどすともなく、
「それは、どこで手にいれたの?」
問いが向けられているのは、車椅子に腰掛けたシナと呼ばれる青年だ。
「いつ? どこで?」
「なんで、おまえが
「…――ぼくが
※2 すでに出演済みですが、新手の登場です……と、いえば、おのずと対象はしぼられてきますが、発言者の正体は次回に——さほど、意外な結果でもないはずです。
※1 大陸の西側への行程——アレンらは、比較的無難にやり過ごせた方です。
セレスと主にその同行者のうちのひとりは、東の南部を抜けるさい、彼らよりはるかに悲惨な目にあっております。彼らの場合は、アレンらと違って、はじめから大陸のこちら側を目指したわけでもない(連れは他にもおりますが……/初期~生後から~のセレスの背景メンバーで、その時同行しているのは、ルーシィのみ/ルーシィは〝さいどすとーりぃ〟の三話目で、ちらっと登場済です)。
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