来訪者 ~クライエント~.3
「――さほどなく担当する者が来る。くつろいでいてくれ」
客人を無事、《
(――霊石、か…。違うものを言っている可能性もあるが、会わせる・会わせないとなるとな……。
彼の
知りたい欲求をふりきって歩みはじめた——その彼を見いだし、背後(死角)から声をかける者があった。
「ルイス。ごくろうだったな」
瞬時に彼の表情が
これまで生きてきたなかに派生した呼称のひとつ――いまとなっては彼をそんなふうに呼ぶ人間はひとりしかいなかったし、その声だ。
(――早い反応だな。いまの段階では、この人が口をはさむほどの案件ではないのに……。可能性として半々だと思ってはいたが、やはり出てきたか。
責任感と好奇……二対八くらいの割合か。
相変わらず暇なんてないはずなのに、暇そうな人だ……)
瞬時にそこまで思案をめぐらせた彼の口から、
意識しつつも
「客人の用件は、もう済んだのか?」
さして力がこめられていなくとも、その行動には、そうしてかけられた手をふり払うくらいの強引さ・覚悟でもなくば、すぐには行かせないという意志が露骨にあらわれていた。
「父さん…」
彼の肩をとらえているのは、五〇半ば過ぎほどのごま塩頭の男。
この館の先導師陣のまとめ役で《
女顔を言われることもある息子のほうは母親似なので、ちょっと見ただけでは、背格好以外、あまり似たところのない親子だった。
けれども。
そうしてならび立つと青い虹彩を
かたち・虹彩の色合いばかりではなく、双方とも、その
「《
「きちんと耳を
「ぼくは、行きがけに依頼人を案内しただけです。
「用件がそうなら、そう判断する時点で知っているも同然だ。
知らないよりは知ったほうがいいこともある。我々のほかにも、それを知る
「こんなことをしてたら、いつか破滅する……(事実、この案件のていどがどうあろうと、
「大きくなりすぎた組織は、性に合わなくてな。せっかく登りつめたのだから
「おしつけられたの間違いでは?」
「うん。そこでだ。ここは見込まれたと思って
どうせ少なからず知っているのだろう? 思いがけず聞いてしまえ。
さして危険のない、
「ぼくは、そうは思いませんでしたよ。
さらりと言ってのけはしたが、事実、未練がないわけではなかったので、それだけに…――おきて破りをうながす父を映す息子の目が冷たく、攻撃的だった。
《
彼としては、理解しているつもりでいても、そういった従来の立場による権限、規制に不満がないわけではない。
それでも、
「思いのほか、早いお越しで気が楽になりました。講義があるので、ぼくは失礼します」
「おまえの授業には、まだあるだろう」
「準備があるので」
「そうか。ぬるま湯につかるのもいいが、それで満足しているとは意外だな。むかしは知識欲の
「その
「これは、あなたの立場を思っての選択でもある。少しでも子や教え子が可愛いと思うなら、わきまえてもらいたい」
いっぽうのフォルレンスは
「ペリの中には例外的に長く生きる者もいるが、早ければ三〇半ばに
おまえにはおまえの生き方、考えがあるのだろうが、その
あえて既存の事実を口にして、相手の振る舞いの
それは、昨今、妻子、身内にかぎらず、周囲の人間との接し方を微調整しはじめた息子への
自分がいなくなっても深い悲しみを抱かないようにという、これまで関わってきたものへの思いやりからくるものなのか。
彼自身が覚悟を決め、人や物にかぎらず残してゆくもの……現実・
両方かもしれず、どちらも等分にふくんでいる可能性が高いのだったが……
彼。フォルレンスの息子は、間近にせまっているかもしれない……いつと確定してもいない自身の死に備え、まわりとの関りを希薄にすることを図っている。
「間接的でもかまわないものが直接的になるのは、先が不透明ならばこそなのかも知れないが、長い可能性を秘めていようと、いつ果てるかわからないのが世というものだろう。
達観による結論・やさしさ・思いやりも、持論にこだわり過ぎれば、周囲への
「あいかわらず、口がへらない…」
「不明はあっても、危険がさし
この機をまんまと逃して、もやもやするのはおまえだな」
「ほんとうに、ずるいひとだ」
「おまえもな。それもおまえの個性なのだろうが、人間、産まれてきたからには、見送る者に悲しまれ
これまでの積み重ねも、存外ばかにはできないものだ」
(――
この
息子の腹の内でくり出されたのは、負けん気の強さから出た負け惜しみだったが、浅くはない
「ブラエは
本人もそう言ってた。四年の差は大きいからな。あれには、それで散々いびられた。
へたに
むかしは若かったから、破滅しないていどにこれを維持管理するのにも苦労したものだ。
いまもまあ、それなりだから……。
頼りになる
時には、それが抑止にもな」
その場に
「比較的早く
その口から出たのは、本気とも冗談ともつかない
(……曾祖父の代ではずれた私のなかに眠る《
こころなしか沈んで見える息子を映したフォルレンスのその青い双眸には、しめやかな中にも、
【 以下/予備情報になります(気にならない方は読み飛ばしてね) 】
〇 フォルレンスは厚いようにも思える発言をしておりますが、各施設の耐久性および防音性は、利用する者の
極端に薄いものでもないけれど、法印使いがその設備を活かそうとしなければ
個人の持ち家などは、そういった仕掛けのあるなしが個別仕様に。
仕掛けそのものがなくても、法印使いに対応できる法具を持たせれば補強が叶うのは言わずもがなです(ここで主張してしまっておりますが……)。
〇 《ペリ》血統の外見に経年を無視するような停滞傾向が現れはじめるのは、成人前後からになります。程度にも個人差がある。
あと、〝ルイス〟と呼ばれている彼の正名は、近々出てまいります。
この世界、固定化された名字(家名や氏族名および異名や名跡)を背負っている者のほうが少数です(存在しないわけではありません。カフゥ講師や今回、【2】のうちに《真名》が明かされるとしている誰かさんなどは持っております)。
そのへんの事情は、とある師範のパートナーのあり方にからめて、【神鎮め3】あたりで触れる予定です。
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