Failure Mode ~フォールモード~.3


(…――〝大還暦だいかんれき〟って、言った気がする。なら、誕生日か…。大還暦※は、たしか六〇歳の倍で、一二〇。本来は|数え年で、一二一……。どっちなのかわからないけど、この土地ここは満年齢だから、一二〇になるのかな…? 見た目はオレとそんなに変わらないのに、長く生きてるんだな……。亜人だから、長くても短くても不思議はない。でも——…産まれたその日~時~なら、わからなくもないけど、誕生日って、記念してまで祝うほどのことなのかな……)


 無事にその日を迎えられたことを喜びねぎらう種類のもの。

 または、その日まで支えてくれた周囲の人間に感謝を示すもの……。

 ここまで生きて良い関係を築いてくれた本人その人に〝ありがとう〟を伝えるとともに、たたえ祝う期日でもあり、それが少しばかりハメを外し、交流を深めたもつ機会にもなるのだろう。

 けれども十五年ほどしか生きていない認識のセレグレーシュとしては、いまひとつ実感が湧かない。


 そんなふうに個人的な記念日を言祝ことほぐ人達がいることを知っていても、彼の父は、彼が産まれたというその日を「特別な日だ」と言いながら、祝ってはくれなかった。

 さらには……。


 彼が、それと初めて祝福を提起された日。

 母親に裏切られ、捨てられた苦い経験も色濃く残存していたので、喜ばしい意識も備えてはいなかった。


 じっさいは生誕日期日の数日前のことで、母にとっては、さほど重要でもない、きっかけ、事寄せでしかなかったのだろうけれども。


 それよりも前それ以前から彼は、誰かにとって良い日でも、別の誰かにとっては良くない日なのかも知れないと……そう考え、受けとめるようになっていた。


 その日、産まれる者もあれば、同じ時間に不幸に見舞われる者、死にゆく者もあるのだ。

 その、どれも単数ということはないはずで……。

 さらには、そういった…――広義的解釈をすることで認められたい望みをくらまし、おのれを慰撫してなぐさめいたわり、わが身の現実から目を背け、実情をはぐらかしてやり過ごすような諦観ていかんばかりではなく……。

 彼、セレグレーシュは、

 まだ、緑鮮やかな初秋のその日、どこか遠くを見るような寂しげな目をする父と…――。

 極端に明るくなったり優しくなったり、機嫌が悪くなったり、ふさいだりして——至極しごく、情緒不安定になる母を知っていたから……。

 自分の誕生日が特別なのだという考えは微塵もない。


 まったく気にかけていないわけではなくて……

 良い日と思えないなかにも、自分にとってのそれは、厄日でも吉日でもないと。

 目星として築かれた暦のなかに見かける目安――線の中にあるひとつの点に過ぎないのだから、いちいち意識するようなことではないのだと。

 真逆のこだわりを抱いていたのだ。




 ▽▽ 以下は、主張の現場 ▽▽


 ※ 数え年やら満年齢をいう前に、ここの文化には干支えとが存在しない。

 となればその慶事自体(還暦など)がありえなくなりそうですが、細かいことはナシでお願いします💦

 こっちの者が考えるによるファンタジー世界に、現実の事情が組みこまれること、オーバラップすることなどよくあることさ……とか思っております。

 表現や単語がどうあれ〝経年を区切りで祝う慣習がこの土地にもあるんだな〟程度の感覚で受けとめていただけたなら幸いです。借り物の発想です。


 現実を見れば、ここはただの生誕日として収めておくべき場面なのかも知れません……


 第2話【Failure Mode】は、補習場面と、とある少年(白いやつ)の乱入エピソードを組みこんでいるので、あと2ほどあります。

 今回だけは続けて公開ましたが、いまのところ、週一を基準としています(せっかく提起されてる機能があるのに、いつと定期化まではしておりませんが……)。

 継続して覗いていただければ、うれしいです。

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