1-26 エレガンティーナイツ団長②
「酷い事件ですね」
「本当に。ケルリアン王国の治安も評判も、悪くなる一方よ。加えて、精神災害警報が出たから、シニミも急上昇。国民には、必要以上に身を固めるようにと呼び掛けているわ」
十一年前から、ずっと続いている殺人事件。しかし、手掛かりは一向に見つからないようだ。8342人の命を奪った奴が、ケルリアン王国のどこかに潜んでいる。何か重要な手掛かりが、一つでも見つかれば、ここまで悪化していなかったかもしれない。
「最後にもう一つ、共通している事があるわ」
「それは?」
「魔力が全くない状態で発見される。死体からは、アンタみたいに魔力の波長が全く感じられないの。勿論、傷口からもね」
「それはまた、不思議な現象ですね」
「魔力が残っていれば、そこから推測出来るというのに。足跡一つも残さない」
成程、これは確かに手掛かりが『0』になってしまう。警察も探偵もお手上げ状態になる状況を、用意周到に作られている。しかしエレガンティーナイツは、白鶴団長は立ち向かおうとしているのだ。この無惨な『悪』に。
「だから末成。ケルリアン王国を調査する時は、くれぐれも」
「俺も探します」
やっても良いですかという疑問形ではなくて、断言する。団長の言葉を遮ってまで。新人である身分で、こんな態度を取ったら打ち首になるだろう。リストラされてもおかしくない。
「ふふっ、ねっ? 千道君は面白い子でしょう?」
「そうね。堂々と言えるなんて、大した度胸」
茶寓さんは俺を見て、ニコニコしている。あの安心する笑顔だ。これも久しぶりに見た。白鶴団長は一瞬拍子抜けしたが、怒るのではなくて微笑んでいる。
「成程、本当に」
「?」
「アンタにとって、この世界を放浪するのは確定事項なのね?」
「はい」
また間髪入れずに返答をすると、遂に彼女は声を出して笑う。意外と無邪気な子供のように見えたので、内心驚く。後ろにいる仮面の総団長は、やはり笑顔を崩さない。
「アンタの目的は、一体何なのかしら?」
「ナイトメアをブチのめす、です」
台本の最後に書かれている台詞を、序盤で読み上げた気分になった。彼女からしたら、過程とか方法とか何も分からないのに、結末だけ知ろうと漫画の最終ページだけ読む、クソガキのように見えているだろう。後ろで茶寓さんの笑顔が崩れた。
「あらあら、アンタって大言壮語が好きなのかしら」
「そうですね。言った方が良いと思うタイプです」
「ふぅん。何だか昔のアタシを見ている気分ね」
ナイトメアという存在は知っている様だ。しかし、まさか自分が操られていたとは、露ほどにも思っていないだろう。今の彼女はトップモデルだが、最初からそうだった訳ではない。
「アタシの特集を作られる程のビッグになるって、宣言したのを思い出すわ」
「誰にそう言ったんですか?」
「両親よ」
『噓つき……』
勇者さんがぼそりと毒を吐く。多分、本当は彼に言ったのだろう。恐らくだが、記憶をすり替えられているようだ。正に『記憶』のソウルを使う茶寓さんがそこにいるが、彼を疑う余地は全くない。記憶操作する事は出来ないと、滅茶苦茶にいじけたからだ。
「精神災害警報が出たのは、シニミが増えたから。それはつまり、ナイトメアの復活が近づいている、という事なのかしら」
「その可能性が高いですねぇ。今や、どの国も大変です」
白鶴団長の後ろで、平常心を取り繕う茶寓さんが口を開く。先程まで動揺していたが、その素振りを彼女に悟られない様にしているのだろう。
ナイトメアは、英雄さんと勇者さんだけではなく、俺の宿敵にもなる存在。絶対に許してはいけない『悪』の権化。奴には同情もお悔やみもしないし、躊躇なく殺す覚悟でいる。
「ケルリアン王国の事件を調査してくれるのは、とても嬉しいわ。でも適性検査に合格したとは言え、いきなりアンタを信用するのは難しい」
ルージャ山での戦いと『アゾンリディー・モンゲリッジァー』。この二つを成し遂げた事は、俺にとっては凄い事になる。しかしソフィスタの人から見れば、これはまだまだ序の口でしかないのだ。
「どうやったら、俺を信じてくれますか?」
「努力と実績。どんな些細な事でも良い、沢山の事を成し遂げるのよ。そうしていると、いつの間にかアンタの後ろを付いてくる人が来るわ」
信用・信頼を得る為には、依頼で成果を出さないといけない。つまり、実績で外野をねじ伏せる。この世界は、少々実力主義だから。魔力が無い俺に絶大な信頼があったら、それはトップモデルのように目立つのだろう。
「分かりました。必ず、貴方から信頼を勝ち取って見せます」
「楽しみにしているわ、末成」
最終目的の為には、地道な努力が必要。継続は力なり、塵も積もれば山となる。這い上がらなければ。白鶴団長の魂を完全にナイトメアから解放させるには、彼女やエレガンティーナイツを知る事からだ。
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