1-25 エレガンティーナイツ団長

 俺は早歩きで、総団長室へ向かっている。久しぶりという訳ではないが、約一週間ぶりに茶寓さんに会えるのだ。



『転ばないで下さいよ、千道』


「大丈夫ですって」



 懐かしいな、この金ピカ扉を見るのは。細かい模様は、やはり見ごたえがある。ノックを三回すると、中から返事が来たので開けてみる。



「失礼しま~……」

「あら、客人かしら?」

「違いますよ白鶴さん。彼が先日話した、千道君です」

「あぁ、仁から聞いたわ。『中々面白い人だった』って」



 中に入った途端、前方から眩しい『何か』が視界に入って来たので、俺は思わず腕で顔を覆う。発光材だろうか、いやこの世界なら『魔法』かもしれない。会話が聞こえるが、それどころではなかった。



『凱嵐……』



 勇者さんの声で我に返り、恐る恐る腕を下ろして目を開ける。


 そこには、美しい女性がいる。白をベースにした、長いドレスのようなスーツを着こなしている。結びまで拘っているに違いないロングブーツを履いていて、グラデーションが掛かっている、長い髪の毛にはお洒落な白いリボンが付いている。



「とても綺麗ですね……モデルさんですか?」

「あら、良い目をしているじゃない。そうよ」

「やっぱり!」



 彼女は、踵を鳴らしてこちらに来る。その歩き方は、ランウェイをしているモデルそのものだ。冗談抜きで、CGみたいにAI合成の以上に、本当に美しい顔をしている。そして、とても脚が長い。誰が見ても分かるくらいに、スタイルが良すぎる。



「初めまして、銀河の果てからの旅人。アタシはエレガンティーナイツ団長・しらつる がいらんよ。よろしくね」

「は、はいぃ! す、末成千道ですっっ!!」



 手を差し伸べられた瞬間、背中にものさしでも入れられたような感覚が起こり、逆に反ってしまう程に、背筋を伸ばす。俺の右手は緊張で汗が噴き出てしまい、震えてしまう。それでも彼女は気にせずに、優しく握ってくれる。遂に、顔から湯気が出てしまった。



「ふふふ、貴方の輝きに釘付けになってしまったようですねぇ」

「あら、アタシの魅力にもう気づいてくれたの? 嬉しいわね」

「あ、ああああの、えっと、俺はっ、どうしてここに?」



 心臓がバックバックしながらも、何とか言葉を紡ぐ。どうにかして、ここに呼ばれた理由を聞く事が出来た。彼女の真っ白な肌から、ドギマギと手を離しながら。



「白鶴さんに『』をしてもらう為ですよ。千道君はエレガンティーナイツの『適性検査』に合格しましたからねぇ、聞く権利は十分にあります」

「言っておくけれど、全てを任せるつもりは一切無いわよ。ただ、仁から『ケルリアン王国を放浪したいと言っていた』って聞いたから、だけ」

「??」



 茶寓に冷ややかな視線を送り、一息ついた彼女は改めて俺を見る。先ほどまでの優しさはどこにも無く、真面目な顔つきだ。攻撃される訳でもないのに、少し怯んでしまう。



「十一年前から、ケルリアン王国で『とある事件』が発生している」

「事件ですか?」

「そうよ。ケルリアン王室から直々に頼まれるくらいに、むごたらしい。他の『国際世界組織』も協力してくれている程よ」



 大規模な事件の様だ。これからとても恐ろしく、全身から力が抜けてしまいそうな程の絶望を纏った話をされると、直感する。それでも俺は、踏み込んでいく。



「何が起こっているんですか?」

「殺人事件。勿論、普通じゃないわ。十一年も続くほどの手口で、手掛かりは一切見つかっていない。どれも、ただの推測よ」



 これまでの犠牲者は、全員であるらしい。そこから、犯人はと、考察されているようだ。



「海外逃亡せず、見つからないように過ごしているのよ」

「それは、本当に厄介ですね」

「全くよ。王国の警察はお手上げ状態だから、『国際世界警察官』まで出てくる始末。でもあそこは、他の事件で忙しいようね」



 精神災害警報が出てから、人間が関わる事件が多発しているようだ。それ故に、中々ソフィスタに協力が出来ないらしい。向こうも人手不足なのかもしれない。だから王国は、エレガンティーナイツに依頼をしたのだ。彼女達の本拠地は、正にそこにあるのだから。



「他にも、不可解な事はあるわよ」

「何でしょうか?」

「死体よ。調べてみると、共通点がいくつかある」



 死人に口なしだが、身体に付く傷は語ってくれるようだ。人間は脆いので、傷の種類も色々あるのだ。ここでは内面の話ではなく、外面の話をしよう。掠り傷や切り傷、火傷や打撲などが挙げられる。


 ちなみに俺は、全部と堂々と言えるくらいの種類を、かつての惑星で受けて来た。そのお陰で精神面が向上しただろとか言われると、そんな訳ないだろと怒鳴り散らす。



「これまでの犠牲者の数は、8342人とされているわ。犯行の推定時間、性別、年齢、職業はバラバラ。でも全員『斬殺』で、身体の一部が欠けている」

「うぅ……」



 そんなに大人数に上っているのなら、手掛かりの一つくらいは見つかりそうだが、先程言われた通り、全く分からないようだ。



「そして、これが一番の恐怖。必ず、花が描かれている。いや、彫られているって言えば良いのかしら」

「花?」



 つい昨日発見された死体には、深く大きくと、背中一面に桜が掘られていたようだ。身の毛がよだつのは、想像だけでも出来る。実際に見たら、それはそれは胸の奥底から震え上がり、その場で立ちすくんでしまう程の出来事であるのだろう。

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