1-24 大演説会②

「『フロート』のテーマも決まりました。今年は『植物』です」



 茶寓さんが、イベントの詳細を話していくが、俺にはさっぱりだ。なので、聞きながらこっそり二人に耳打ちをする。



「なぁ、これってどういうイベントなんだ?」

「一言で言いますと、です!」

「世界中? 本当に規模が大きいね」



 餅歌は目を輝かせながら説明を始める。彼女は、このイベントが好きなのかもしれない。祝和君は真顔で茶寓さんの話を聞いている。



「四月は『はじめて』へ踏み出す時期だと、言われています。新成人サンは大人の世界に踏み込みますし、社会人サンは初めてのお給料日を迎えますし、学生サンは初めての学年イベントに参加したり」

「成程、確かに初々しい気分にはなるよな」



 店はキャンペーンとかやるし、歌手は応援ソングを歌ってくれる。お笑い芸人だって、自分の体験を笑い話にする。


 全ては『最高のスタートダッシュ』をキメる人達の為に。自立への一歩を踏み出す人の為に。



「色んなプレゼントを作って、当日に来てくれた人に差し上げる。役に立つモノから娯楽に使えるモノまで! それが、『いろしもの』です!」



 完全に理解した。なんて素敵なイベントなんだ。世界中を巻き込むなんて、簡単に言っているけれど、本当に実現してきているんだろうな。正に、ソフィスタらしいイベントだ。



「でも『フロート造り』はクソ怠いから、やりたくねぇ」



 会話を聞いていたらしく、祝和君がため息をつく。冒頭で茶寓さんがその話をしていたな。今は当日の配置を話している。



「何なの、それ?」

「開催場所はここ。沢山の人が来るけどさァ……ゼッテェ混むんだよ」

「だろうな」



 世界中の人々が来るとなると、混雑は免れない。ヒートアイランド現象も起こしてしまいそうだ。「去年の最高は320分待ちだった」と、ため息交じりに祝和君が補足する。テーマパークにある、大人気アトラクションの待ち時間のようだ。



「待ち時間を退屈にさせない様に、フロートを各団で一個ずつ造って、グルグル周回させるんだよねェ」

「写真を撮っている内に、列はどんどん進んで行き……気づけば自分の番になっている、というのが狙いです」

「じゃあ、あれか。フロートを眺めるのが飽きない為に、めちゃくちゃ凝っているのを造らないといけない、って事か?」

「そーそー……はぁ、ベゴちゃん団長、また変な対抗心を燃やすよ……」



 祝和君は、既に何度もため息をついている。相当やりたく無さそう。餅歌とは正反対な『関心・意欲・態度』だ。しかし、世界中の人を魅了するフロート造りは、俺には想像も出来ない程の苦労が必要だろう。



「対抗心って、どこかの団と競っているのか?」

「『フェザーフェイトマーシー』ですよ。ここ四年は連覇しています」

「これ、勝負イベントなの?」

「う~む、強いて言うなら『フロート投票』ですかね?」



 帰り際に『どの団のフロートが良かったですか?』と、来訪者に投票してもらうようだ。毎年、どの団も凄く僅差らしい。団子順位だと餅歌が話す。どれも、クオリティーが高くて、甲乙つけがたいって事だろう。



「毎年あの団が一番に完売しますし『フロート投票』も一位を取るんです。私達は二位ですね~」

「そんなに凄く良いモノを売っているのか」

「『売る』っていう表現は変かもしれねぇけど……まぁそんな感じ。だからあんなに対抗心を燃やすんだよねぇ、ウチの団長は」

「何で変なんだ? 世界中の人が買いに来るんだろ?」

「『いろしもの』で販売する商品は、全て『無料』ですよ」

「えぇっ!?」



 このイベントに参加するだけでも、お金を払う価値が十分にあるというのに……もらえるモノは、全て無料だとォ!?



「何で初給料をむしり取んねーといけねーんだよ。もっと他に使いどころがあるでしょ」

「無償で提供するのが『』です!」

「神イベントじゃん、それ」



 茶寓さん、団長の皆様へ。開催する決断をしてくれてありがとうございます。必ず参加します。風邪を引いたら這ってでも行きます。



「でもイモ君は無所属だから、どうするんだろうね?」

「あ、確かに。う~ん、茶寓さんから何か言われるかな?」



 こう見ると、俺ってめちゃくちゃ曖昧な存在だ。茶寓さんとは、あれから話せてないけれど、この集会が終わったら話せるだろうか。



「フロート造りのプランは、既に団長達が作成済みです。自分の部屋のポストに入っていると思いますので、時間が出来た時に確認しておいて下さい。

 では、本日の集会はこれで終了します。ありがとうございました」



 団員は各々のタイミングで頭を下げ、外へ出て行く。これから、自分の依頼に向かうのだろう。祝和君と餅歌も本拠地に戻らないといけないようなので、ワープポイントで別れる。



「茶寓さんの所に行けるかな……ん?」



 スマホが振動したので、開いてみる。ラツフェイにメッセージが届いた様だ。見ると、正に総団長からだった。



『こんにちは、千道君。総団長室に来れますか?』



 これが初めてのメッセージとなる。何故、白鶴団長から承諾を得た時は送らなかったのかも、聞いてみよう。

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