1-23 大演説会

 ある所で、テラという若い女性が自分の畑を耕していました。


 彼女は野菜も、花も、服も、家具も、友人も、家族も。全てモノクロにしか見えていませんでした。


 そんなテラの元に、クリムという異国から来た一人の男性が現れます。


 そして、一輪の花を渡して「お世話をして一年後の今日、手折って欲しい」と言うのでした。


 一年後。言いつけ通りテラが花を手折ると、春を告げる風が吹き荒れ、畑に無数の雷が落ちました。


 豪雨が収まり外へ出ると、畑一面には沢山の花が咲き乱れていました。


 その時、彼女は初めて極彩色の世界を見る事が出来ました。


 畑から踏み出した世界は、どこまでも色鮮やかに輝いていました。


 再び訪れたクリムと恋に落ち繋がり、永久に咲き誇る美しい一輪の花と、姿を変えましたとさ。



―――――



「良い話だなぁ」

「そんな悲しい話だったっけ?」



 餅歌から聞き終わった俺は、思わず感想をポツリと言う。しかし祝和君は、真逆の意見を述べる。



「なんで『悲しい』って思うんだよ?」

「花になったって、それ『死んだ』って意味じゃん。やっと、キレーな世界を見れるようになったのにさァ」

「確かにそうだな。でも、テラさんにとっては『色を付けてくれたクリムさん』と一緒にいる事が、一番の幸せって気づいたのかもしれないぞ?」

「イモ君、ロマンチストだねェ」

「えっ!? そ、そんな事は無いぞッ!?」



 クリムさんとテラさん。二人の名前から、チック・ンスになっているのか。こう聞くと、本当にあった話っぽく思える。



はなびらの色は、お二人が見ている世界の色だって言われてますよ!」



 そう言った餅歌は、丁寧に手を合わせて「ご馳走様でした!」と元気いっぱいに言う。お手拭きで手を拭くが、バターが頬に付いたままだ。この様子だと、彼女は気づいていないのだろう。



「わ、わ……んむむ」

「ブッッッ」



 リンゴジュースを盛大に吹いたが、コップの中だったのでセーフと見なして欲しい。何も言わずに、祝和君がいきなり餅歌の顎を鷲掴みにし、直接吸い取った。そして、頬に付いた彼の唾液を袖で雑に拭く。これに驚く俺は、おかしいのだろうか。



「バターが付いてたよ」

「そうだったの? ありがとう、祝和クン!」



 何の疑問も持たない彼女を見て、やはり俺がおかしいと思い込んでしまう。二人にとっては日常茶飯事、これはエレガンティーナイツ式の挨拶に過ぎない。そう納得せざるを得ない。口と口が当たった訳じゃないし。



「何」

「ナンデモナイデース」


 

 と言う訳で、俺達は朝食を食べ終わった。今日は儀凋副団長が教えてくれた通り、『ソフィスタ全体集会』がこの後すぐにある。


 『DVC』にいる団員は、『大演説会場』という建物に移動するようだ。



 ―大演説会場―



「人が多いな~」

「当たり前でしょ」

「『リンカルライフ』以外の団員サンが、集まっていますからね!」



 あの団は、本当に来ないようだ。特別扱いというワードが、とても気になってしまう。もはや同じ職業なのかも、怪しく思えてしまう。勇者さんに聞きたかったが、案の定アダルトビデオ化した。


 大食堂の構造には驚いたが、ここの建物も凄い。学校の体育館みたいに、ステージの下に並んで待機している団員もいれば、二階と三階まで登って、椅子に座っている団員もいる。


 俺達は始まる五分前に来たので、扉の近くで立ち聞きする事になった。



「どんな話をするんだろう」

「この時期だと『七大イベント』じゃね?」

「でも、今年はやるのかな……?」



 七大イベントとは、ソフィスタが毎年開催している、大規模な七つのお祭りの事だ。『精神災害警報』の所為で、やるかやらないか茶寓さんは迷っていた。でも、彼は「やるべきだ」と話してくれた。このイベントが、ソフィスタの人気を維持する要因でもあるのだから。



「あ、始まる」



 鐘の音が聞こえた瞬間、ざわつきが一斉に止まる。前を向くと、ステージの上に茶寓さんが出て来た。その後ろに、団長らしき人達もいるが、俺は片目しかなくて一番後ろにいるので、全く顔が見えない。



「これより、全体集会を始めます。本日の議題は『七大イベント』です。結論から申し上げますと、今年も『やる』という選択肢になりました」



 会場が、一気にざわつく。それを見かねた茶寓さんは、台座の上に置いてある金槌を三回叩く。すると、また静かになる。



「団長会議で決まりました。このご時世なので『やらない』という選択肢の方が良いと考えた方も、いらっしゃるでしょう。しかし、世界が困難に陥っている今こそ、やるべきだという意見が、一致しました」



 仲が悪くなってしまったと言っていたのに、志は同じのようだ。彼らは正常を保っている様だ。世界中の人々の為にやるイベントなんて、ナイトメアに洗脳されていたら、実行する訳が無いだろう。



「今年は例年よりも準備期間がありませんが……4月30日に、一番目のイベントである『いろしもの』を開催します!」



 ……パチ、パチ……



 パチパチ、パチパチ……



 パチパチパチパチ! パチパチパチパチ!!



「……ありがとうございます。拍手喝采という事は……皆さんも、賛成という事ですね?」



 パチパチパチパチパチパチ!!



 拍手は鳴りやまない。これが、答えだろう。無事に開催させる為に、尽力を尽くす事になるのは言うまでもない。

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