1-22 一階の料理

 大食堂へ行くと、既に沢山の人が食事をしているのが見える。一般人も楽しんでいる。わざわざここまで来るって事は、相当なお金持ちなんだろう。ゼントム国へのタクシー代は、両手では数えられない額をするのだ。



 本日のメニュー


・レーズンバターロール

・シーフードサラダ

・フルーツヨーグルト



 飲み物は、ドリンクバーから好きに汲んで良いようだ。炭酸が好きなのでコーラにしようか。でも、朝からゲップを大人数いる場所でカマすのは行儀が悪いので、やっぱりリンゴジュースにした。


 いつもと同じ、端っこの席が運よく開いていたので、そこに座って食べ始める。しかしどうしてだろうか、いつもよりも視線を感じる。



「俺の顔、変なモノが付いてますかね……?」


『美しい一輪のバラが、右目から咲いてやがりますね』


「それだけですよね?」



 リンゴジュースを飲みながら視線に耐えていると、向かい側の席に誰かが座る音がした。人は多いが、満席じゃないだろう。まだ食べ始めたばかりなんだよと文句を言おうと、ジュースを机に置いて相手を見る。



「千道サン、おはようございますっ!」

「はよー……って、何その顔。ヒョーシ抜けしたみてーな」

「あのあの、ご一緒しても良いですか?」

「あ、ぁ……うん、勿論。おはよう二人共」



 偶然、タイミングが合ったようだ。先日友達となった美少年と美少女が、ごく自然に同席する。誰かと一緒に食べるのは、茶寓さん以来かもしれない。朝食を食べ始める。


 レーズンバターをパンに乗せて、口へ運ぶ。ロールパンが良い感じに焼けていて美味しい。レーズンは甘めだな。シーフードサラダの中身は、スライスベーコンとカニとイワシがドサドサしている。フレッシュなので瑞々しい。


 前を見てみると、餅歌はレーズンバターを少しずつ付けながら食べ進めているのに対して、祝和君は適当に付けている。一口も大きいようで、もう半分以上食べている。



「ここって『国際世界組織』の人なら、無料なのが凄いな」

「まぁ働いているし。上の階の方は一般人が多いよ」

「そうなんだ」

「でもでも、六階からは『ソフィスタ』の人しか、入れないんですよ!」



 ここは十階建てで、上に行くほど高級料理になるっていう作りみたいだ。貧乏性な俺は、一階のメニューで既に満足している。しかしいつか、六階以上にも行ってみたい。カースト制度がそれなりにあるらしいけれど。



「あ! 千道サン千道サン! 私、渡したいモノがあるんです!」

「ん? そうなの?」

「はい!」



 突然何かを思い出したらしく、半分ほど食べ終わった餅歌がカバンから袋を出し、俺に手渡す。中を見ると、白色のスーツが入っている。ズボンと靴まで入っている。



「昨日、俺と餅歌で買って来た。着たい時に着れば?」

「『適性検査』の合格祝いですっ!」

「ありがとう、二人共!」



 俺は袋にしまい、隣に置いておく。後で着替えてみよう。郷に入っては郷に従えって言うし。ケルリアン王国は、とても綺麗な王国だと思う。もっと、色んな場所に行きたくなる。せめて、ワープポイントを制覇するくらいには。



「あのさ、空中庭園にある……え~っと、くりむ、なんちゃらって……」

「クリムチック・テランスですか?」

「そう、それ! 俺の世界には無い花だから、見てみたい」



 ユーサネイコーの食生活とか、住み方とかは同じ感じ。けれどやはり、どこかでズレがあるようだ。シニミなんて地球にいないし、魔法が使える人も存在しない。逆に、この世界には無くて向こうにあるモノは、あるのだろうか。



「あのお花サンは、『むかしばなし』にも出て来るくらい、古くから咲いていると、言われています!」

「昔話?」

「本っ当に古いお話ですので、信じない人もいるんですけれど、とっても興味深い内容なんです!」

「へぇ~、この世界にも昔話があるんだ」

「そっちにも、こういうのあんの?」



 祝和君は、もう既に食べ終わっているようだ。会話の相手は俺だけど、視線は餅歌に向いている。彼女の口の端っこに付いているバターが、気になっているからだろうか。



「あるぞ。桃から生まれた人間が悪さをしている鬼を倒して、英雄になる話とか」

「英雄! カッコ良いですね!!」


『えぇ、勿論ですよ柑子さん。彼女はこの世の誰よりもカッコ良いんです』



『英雄』違いですよ、勇者さん。急に話し出したので、俺は思わずリュックを見てしまう。でも幸いな事に、二人は特に気にしていないようだ。



「クリムチック・テランスと同じくらいに、有名なんですね!」

「おう。大半の人が、一回は聞くよ」



 まだ、右目を失う前に聞いた話だ。もしもあの時点で失っていたら、聞く事は無かっただろう。餅歌は目を輝かせているけれど、祝和君は聞き流している。あまり興味が無かったのだろうか。



「俺、クリムチック・テランスの昔話を聞きたい」

「覚えてねぇ」

「え、ケルリアン王国出身じゃないの?」

「エレガンティーナイツってだけで、皆があの王国出身って訳じゃないよォ」



 白鶴団長と儀凋副団長は、ケルリアン王国出身のようだ。でも、言われてみればそうか。『国際世界』と言われるくらい、グローバルなんだろう。全然あり得る話だ。いつか、彼の故郷の話を聞ける時が来るだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る