作戦会議編
1-21 新しい眼帯
―――ここは……
「……千道。夢の中で会うのは久しぶりですね」
―――勇者さん?
「そうですよ。三回目あたりから、声は聞こえていましたが。会話が出来るのは、今回が初めてですね。……どうですか? おれの姿は見えていますか?」
―――どこにも……いない……
「そうですか。中々、思うようには行かねぇですね」
ジリリリリリリ…………
「もう時間が来やがりましたね。また、現実で」
ジリリリリリリ…………
ジリリリリリリ…………
***
4月5日
「やぁ! 君の寝顔は、無垢な子供のようにあどけないね!」
「ぎゃああああああああああああッッッッッ!!!!!!」
起き上がろうとしたら、目の前に笑顔の儀凋副団長がいる。もっと言えば、俺の真上に乗っかっているという、よく分からない状況に陥っている。
ド近距離でフォントが変わる勢いで叫び『飛び降りて・転んで・打ち付ける』という、最悪の三段階を踏む。冷たい床の上に落ちた俺の全身は、クソ痛い。
「成程。千道君は、朝から猛獣の咆哮を出せるんだね。素晴らしい声帯の持ち主のようだ。しかし、その興奮で右目から血が滲んでいるよ」
「ふぇぇぇ…………」
雄叫びすらも興味深そうに聞いている。もう恐怖を感じて来た。右目が痛い。そもそもどうやって入って来たんだ。玄関の扉は茶寓さんが直してくれたというのに。
「鏡を伝って来たのさ。私のソウルは、近場の鏡に出入り出来る。玄関まで行き、泥まみれの洗面所からお邪魔したよ」
あぁそうか。これが『寝起きドッキリ』って奴なのか。芸能人さんって、こんな凄い事も軽々とこなすもんな。俺は絶対に行き倒れる。
「本物では、初めましてだね。私がエレガンティーナイツの副団長・儀凋 仁さ」
「末成 千道で、すっ!?」
「ふむふむ……柔らかめの皮膚をしているね。目立った外傷も無く血流も良好だ。骨の硬さも問題ない。少し白みがかっている色だ。あまり日焼けはしてこなかったタイプなのかな?」
手を差し出されたので、握手かと思い同じように前へ伸ばした。すると力強く握り絞められる。そのまま彼の目の前まで持って行かれ、隅々まで観察される。
「あ、あ、あのっ! 俺に、何か用ですか?」
「あぁ、すまない。つい夢中になってしまったよ。本日は五日だから『ソフィスタ全体集会』があるのさ」
それは毎月五日に行われ団員全員が参加する、重要な話を高確率でされる集会らしい。依頼がぶつかったら、録画放送を見るようだ。当たり前だが、俺は初めて参加する。儀凋副団長は、俺に会うついでに教えに来たらしい。こっちが用件じゃなかったのか。
「朝の九時からさ。それまでに、朝食を食べる事をオススメするよ」
「ど、どうも」
「そしてね。私は君に渡すモノがあるから、ここへ来たのさ。さぁ、顔をこちらに向けて。美しく取り付けてあげよう」
「ぶぎっ」
何ですかそれと言う前に、儀凋副団長に顎を掴まれて変な声を出してしまう。しかし彼は気にせず位置を固定する。力が強いので、手形が残ってしまうんじゃないかと心配していると、彼は突然指パッチンをする。すると、右目の痛みが無くなった。
「ふふふ、よく似合っているよ」
「…………!!」
彼は顎から手を外し、代わりに小さい鏡を出して、俺に見せる。傍から見ると白いバラが、俺の右目から出てきているようだ。血も止まっている。
「眼帯代わりに、どうだろうか。花は日替わりになる仕様なんだよ」
「ありがとうございます……! 大切にします!」
「気に入って頂けたようで何よりさ。ところで、君が一番好きな花は何だい?」
「白いアネモネです」
「そうか! また一つ、君の事を知れて嬉しいよ!」
実を言うと、あまり花には詳しくない方だ。だから好き嫌いも激しくない。でも白いアネモネには、忘れられない大切な思い出がある。
もしもいつかこの眼帯に現れる日が来たら、俺に生きる勇気を与えてくれた、とても素晴らしい妖精とのやり取りが、鮮明に頭の中を駆け巡って来るだろう。
「では、私はこれで失礼するよ。朝の『大食堂』はどうしても混むからね、早めに行くのがオススメさ」
「ありがとうございました」
「
そう言い残し、儀凋副団長は手を振って姿を消してしまう。一人残された俺は、そっと新しい眼帯に触れる。手作りだとは思えない程の触り心地は、本物の花のように感じる。
「大食堂か。今日の献立は何だろうなぁ」
『いつもは人が少ない時間帯に行くので、周りの目を気にしねぇで食べれましたが、今日は難しそうですね』
魔力が無いのが原因なのか、この片目しかない顔が気に食わないのか。人が多い場所へ行くと、奇怪なモノを見たような表情をされ、避けられる。
「気にしませんよ。地球で慣れているので」
本当ならば、絶対に慣れてはいけない事なのだろうが、習得してしまったならば仕方が無いのだ。ここでもガンガン活用していこうじゃないか。
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