No.2 「驟」の悪夢
僕の夢の中に、「
久しぶりに「驟」に追い回される夢を見たのだ。変な汗をかいた。少し動悸がする。「驟」に触れられた人間は、同じく「驟」になる。正方形になるわけではなく、人の形のままその輪郭が乱れ、どこからかバリバリという雑音を発する。正方形のそれ自身も、それに侵された人間も、人々は総じて「驟」と呼んでいた。増鬼形式の悪夢はありきたりだが、「驟」の悪夢はなぜか一際おそろしく、緊迫している。
「驟」には壁や扉といった概念は通じないらしく、どこにでも入ってくる。意識や自我もないらしい。生き物でもないらしい。ただただ、人間を「驟」に変えるだけの存在。そんなものが徘徊する街で、僕は逃げ込んだ近所の喫茶店で震えるしかなかった。
この夢はいつも最後まで見ることができない。いつもたまたま目が覚めているのか、悪夢のストレスで体が目覚めてしまうのか、夢の中で僕がどうなったのか知ることができない。「驟」に追いつかれた記憶はない。そんな実感も残らない。ただいつも残るのは、重苦しい罪悪感である。人々を身代わりに自分だけ助かったような、安堵感に似た罪悪感である。夢での意識が消えたあと「ああ僕はみんなを犠牲に生き延びたのだ」と確信が持てる程の明確な罪悪感に苛まれる。僕はこれがとても嫌いだ。目が覚めてから、夢と現実の区別がついてくる程の時間が経ってもこのじわりとした重みはしばらく残る。頭の中には「驟」が発するバリバリという騒音が反響している。しばらくは風呂場の換気ダクトに怯える日々が続きそうである。
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