第21話 ぱぱん
隣には不機嫌そうなマリアがいた。そして後ろには上機嫌なルイワーツである。
3人は中央通りを歩いていた。中央通りは、読んで字の如く、中央広場から城壁の正門までの直線を通したこの都市最大の通りで、いつも活気づいている。
高級宿屋やお
門に近づくにつれ、一般宿屋や
ハルト達が歩いているのは庶民寄りのエリアである。そろそろ昼食時にさしかかる時間帯なだけあって、通り沿いは賑わっている。
不意にマリアが顔を寄せてきて、フローラルのような良い香りがした。小声で耳打ちするのだろうと分かっていても、少しドキッとする。
「ねぇ、なんでコイツがいんの?」とマリアが耳元で言う。本人なりに小声で言っているつもりなのだろうが、普通に後ろのルイワーツに聞こえる声量だった。その証拠にハルトが答える前にルイワーツが答える。
「俺はハルトさんの兵だからな、当然だ」と何故かルイワーツが勝ち誇った顔をした。
自分の主君であるマリアへの
「ルイワーツ先輩はマリアさんの兵なんですけど」
「いえ、ハルトさん。騎士は己の認めた主君に忠誠を誓うものです」と何故かルイワーツがハルトには敬語を使う。何故か何故か、とルイワーツの行動には『何故か』が付きまとう。要するにルイワーツの思考回路は理解不能、ちんぷんかんぷん、わけわかめ、ということだ。
「いやルイワーツ先輩は騎士じゃないですし。ただの兵です。とにかく僕の主君のマリアさんに失礼なことしたら許さないですよ!」とハルトが釘を刺すと、
「はい!」「主君?」
と、ルイワーツの元気な返事と、マリアの
(なんだろ? 僕なにか変なこと言ったか?)
マリアさんに尋ねてみようとハルトが口を開きかけるが、先にルイワーツがハルトに不服を申し出たため、ハルトの意識はマリアから逸れた。
「ハルトさん、俺に敬語使うの止めてくださいよ。主君は主君らしくして頂かないと」
「その言葉そっくりそのままお返しします。ルイワーツ先輩に敬語使われるとなんか鳥肌たちます。あと主君はマリアさんです」とハルトがルイワーツに言い返す。
視界の端でまたしてもマリアが「…………主君?」と難しい顔で首をかしげていた。
ルイワーツは尚も食い下がる。「そうだとすれば、マリアに仕える者としての先輩はハルトさんじゃないですか。先輩に敬語を使うのは当然です」
ルイワーツが自らの主君をぞんざいに呼び捨てたため、ハルトはムッとした。当の本人であるマリアは全然気にしていない様子だった。
「『マリア』じゃなくて、『マリアさん』です! あ、『マリア様』かな?」
「マリアで良いよ」とマリアがどうでも良さげに言う。「というか、誰も敬語なんて使わなくて良いよ。そういうの面倒くさいから」とマリアは
鶴の一声で、ハルト達の
呼び捨てにされる領主など見たことがない、とハルトが頭を抱えるが、マリアの中ではもうその話は終わったことになっているのか、「ほら、着いたよ」とハルトに笑みを向けた。
ハルトは、行き先は聞いていなかった。
いや、聞いたのだが、マリアは「挨拶だよ」としか答えなかった。主人のスケジュールについて根掘り葉掘り
もちろんルイワーツも知らないだろう。彼はハルト以上に何も聞かない。ハルトに付き従うこと以外はどうでも良いと考えている節があった。まるで
「ここ…………」とハルトがその店の大きな看板を見て呟く。「鍛冶屋?」
「そ」とマリアが答えた。
ハルトは、あわわわわわ、と口を押さえて青ざめる。
(もしや先日の転移トラップ騒ぎの時に、マリアさんの武器が損傷した?! え待って。S級冒険者の武器って、いくら? 金貨何枚? 白金貨? 終わった。破産だ。奴隷落ちだ)
「マリア。お前、武器新調すんのか?——ぁ痛ァ」ルイワーツがマリアに生意気な口を叩くので、ハルトはルイワーツに蹴りを入れた。
「社長に
「ハルトさん、ちょっと何言ってんのか分かりません」とルイワーツはハルトに蹴られたのに何故か少し嬉しそうに言う。変態である。
「違う違う。武器は買わないよ」とマリアが顔の前で手をぶんぶん振った。
あ武器壊れてなかったか、良かったぁ。と思ったのも束の間。マリアが衝撃的な事実を告げる。
「ここ、パパの店なの」
……………………ぱぱん?
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