第六話


 木南夫妻とひかりの交流が始まってから早一ヶ月。月太郎が竹林で竹を取り、そのついでにひかりとまったり過ごす。時々、光子も遊びに来る。今ではすっかりそれが日常となっていた。


「なぁ、ひかり。お団子食べてみるか?」


 月太郎は仕事の合間に食べる軽食用の三色団子をひかりに渡してみた。


「?」


「それ、ウチの店で作ったやつ。美味しいぞ。食べてみろ」


「?」


 ちょっとした好奇心だった。口が無いのっぺらぼうは、どうやって食べたり飲んだりするのだろうかと。

 ひかりは手に取った団子を無い目でまじまじと見つめ、無い口元にちょんちょんと当ててみた。無論、団子はひかりに食べられる事なくそこに在り続けている。今度は指先で団子をつんつんしてみる。串ごとくるくると回してみる。そして、頬に当ててすりすりした。団子が食べられる気配は全く無い。


「団子に頬擦りする奴は初めて見たよ」


 月太郎はひかりの仕草が可笑しくて笑った。


「そうだ。お前には、遊び道具の方がいいかもしれん」


 次の日、月太郎は光子を連れて竹林にやって来た。光子は持ってきた紙袋から、赤と黄色の模様が入った手毬を取り出した。


「ひかりちゃん。これ、私が子供の頃に遊んだ手毬。こうやって地面について遊ぶんだよ」


 光子が手毬の遊び方を実演してみせた。ひかりに渡してやると、ひかりは同じ様に手毬をつく。そしてぴょんぴょんと飛び跳ねた。嬉しいようだ。


「俺達が居ない時は、これで遊べばいい」


 ひかりの背格好は人間の成人女性のそれと等しいが、木南夫妻が彼女の仕草から読み取れる精神年齢は凡そ四、五歳程度に感じられた。


 ひかりと手毬で遊んだ後、家路の途中で月太郎は夕日を見つめながら言った。


「俺達の子供も、ああやって遊ぶようになるのかな」


「さあね。私に似たら、手毬に夢中になるだろうね。あと、美人になるだろうね」


「俺に似たら?」


「可哀想に⋯⋯」


「何でだよ!」


 光子は笑いながら、お腹を擦った。このところ、少しずつ大きくなってきたそのお腹には、二人の新しい命が宿っている。


「この子とひかりちゃんがお友達になったら、楽しいだろうね」


「のっぺらぼうは、子供にはちょっと刺激が強過ぎないか」


 二人は幸せを噛み締めていた。愛すべき我が子と、我が子のように可愛い妖怪。そして、月太郎と光子。それぞれがそれぞれを愛しながら過ごす毎日を思うと、血の雨が降った幕末の頃を、ほんの少しだけ忘れる事ができるのだった。

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