第三話


 月太郎はのっぺらぼうとの意思疎通に神経を集中させていた。


「お前、ここ数日で何人かの村人に会っただろう」


のっぺらぼうは首を縦に振った。


「脅かしたのか?」


今度は首を横に振る。そして頭を抱えた。


「⋯⋯皆、お前の顔を見て驚いたんだろう。けどお前はそういうつもりはないのだな?」


月太郎は再度確認した。のっぺらぼうは悲しそうに首を縦に振った。


「そうか。よく分からんが、お前は良い奴みたいだ。だが村人には近付くな。皆お前が怖いし、何なら俺もまだちょっと怖い。お前も騒がれたりするのは嫌だろう。しかし困ったなぁ。仕事でこの竹林には入らねばならん。俺がここに来る事を、きっと村人達は怪しむぞ⋯⋯」


 どうしたものかと腕を組んで悩む月太郎を見て、のっぺらぼうも同じ様に腕を組み、悩み始めた。


「そうだ! 光子に相談しよう。商売の為だ。妖怪なんぞお構い無しに、何か考えてくれるだろう」


 思い立った月太郎は、のっぺらぼうにまた戻ると言って、家まで走って行った。残されたのっぺらぼうは、また首を傾げていた。


「光子! 戻ったぞ! 相談したい事がある!」


そう言って勢いよく玄関を開けた途端、月太郎の頭に鍋が飛来して直撃した。


「痛っ! 何をする!」


「月太郎の阿呆太郎! 大声出すな! 怖いやろが!」


 お前の方が千倍怖いという言葉を既の所で飲み込んだ月太郎は、姿を表さぬ光子を不審に思った。

 居間に入ると、光子は隅の方で物陰に隠れて小さく蹲っていた。


「月太郎、あんたも聞いたでしょう? この村には目も鼻も口もない妖怪がおる!」


 分かりやすくガタガタと震える光子を見て、月太郎は溜息をついた。そういえば、光子は幽霊や妖怪といった類のものには滅法弱い事を月太郎は思い出した。


「光子、怯えてる場合ではないぞ。竹林から竹を取らねば、団子屋が潰れて俺達は飢え死にする」


「潰れてしもうたらええ」


「馬鹿光子! 妖怪如き、既に俺が手懐けたわ」


 少しの沈黙の後、光子は物陰からそっと顔を覗かせた。


「あんた、何言ってんの?」


「のっぺらぼうは怖くない。おっとりしていて、優しい女子おなごだ」


「あんた、浮気しとんか!」


 小心者の光子は、閻魔の光子に戻っていた。


「何でそうなる! いいから一緒に行くぞ。百聞は一見にしかずだ」


 月太郎は光子の手を取り、また先程の竹林へと駆けて行った。

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