第2話ー血液検査
サヤカとヨシテルは、一緒の部屋に住んでいる。
だが、サヤカは、ヨシテルにこう言った。
「ヨシテル」
「何?」
少し、サヤカは、物足りなさそうに、ヨシテルに言った。
「いつも、私のコンビニに来ているじゃない」
「うん」
「それで、思い出したけど」
「何?」
「唐揚げとか辛子明太子のおにぎりを、いつも食べているじゃない」
「うん」
「血液検査の結果とか、大丈夫?」
サヤカは、指原莉乃に似ている。
そして、サヤカは、勘のいい女の子だった。
実は、ヨシテルは、会社の健康診断が、あった。
その時、会社の嘱託医から
「お宅は、中性脂肪とコレステロール値が、高い。脂肪肝になっています」
と言われていた。
…
2023年10月だった。
ヨシテルは、上大岡駅の近所の角川地域保健センターへ行っていた。
そして、困ったヨシテルは、何故か、保健師さんと話をしていた。
「どういったご用件で?」
眼鏡をかけた20代の保健師さんは、ヨシテルに言った。
「実は、会社の健康診断で、脂肪肝と言われて…」
本当は、ヨシテルは、この時点では、彼女がおらず、困っていた。
いや、寂しいあまり、地域保健センターへ行っていた。
よく見たら、20代の保健師さんは、少しだけ、指原莉乃を思わせる顔立ちだった。
「最近、スポーツクラブへ行き始めたのですが」
「え、スポーツクラブへ行っているのですか?」
「はい」
「で、週に何日行っていますか?」
「まだ、週に2日しか行けておらず」
「ですが、お宅、今なら、まだ若いから、週に2日からだと、健康診断の結果が、良くなると思いますが」
「そうですか?」
「そうですよ」
と言った。
…
いや、本当は、スポーツクラブへ行きたいのではなく、保健センターへ行って、若い女性と話をしたい、などとあらぬ動機で話をしに行った。
だが、困ったヨシテルは、到頭、その日の夕方に、スポーツクラブへ行き、運動を始めた。
実は、ヨシテルは、体重が、10キロ増えた。
そして、それは、寂しいあまり、コンビニで買い食いをしていた。
…
「いや、サヤカ」
「何?」
「今さ、オレ、実は、スポーツクラブへ行っているんだ」
「え」
「そうなの?」
「うん」
「偉いじゃん。活動的」
とサヤカは、言った。
だから、2023年10月から、スポーツクラブへ行っているのだが、2024年2月14日に、急に、お隣に来たサヤカが、急に、ヨシテルが、スポーツクラブへ行っているのを知るはずはないと分かる。
そもそも、一番、体重が増えた原因は、サヤカだったのではないかとも思う。だって、サヤカが、仕事をしているコンビニで、いつも辛子明太子おにぎりやら唐揚げを買っては帰っていたのだから。
「ちゃんと、お野菜食べないといけないよ」
と笑顔で、サヤカは、ヨシテルに言った。
まるで、サヤカは、ヨシテルのお母さんみたいに言った。
ヨシテルは、自分が、息子みたいに感じた。
…
サヤカは、キッチンに立った。
包丁の音が、トントンと聞こえる。
久しぶりだった。
野菜を切っている。
レタスの音がシャキシャキ聞こえてきた。
…
ヨシテルは、大学院で、栄養学を専攻していたのに、実は、何も分かっていなかったのだと痛感する。
そして、保健センターへ行って、保健師さんや栄養士さんと話をしている自分が、滑稽に感じた。そんな事を、何度も繰り返していた。保健センターへ行って、だけではなかった。
そもそも、上大岡駅の近所の公立図書館でも、司書に人に「ニワトリの本を探してほしい」なんて、本に興味がないのに、言っては頼んでいた。または、都心へ行っては、地下アイドルの推し活もしていた。女優の有村架純さんの写真展へ渋谷まで行っては、手書きのファンレターを、会場に設営されていたポストへ入れたこともあった。
だが、今は、隣に、サヤカが、引っ越してきた。
「ヨシテル~!」
「何?」
「夕飯、出来たよ!」
と明るい口調で、サヤカは、言った。
「今日は、牛肉を炒めたよ」
と焼肉のたれで、炒めた牛肉と、レタス、ニンジン、キュウリ、そして、みそ汁がホクホク湯気を立てていた。
「明日から、また、運動頑張らないといけないよ」
と言って、二人で、食事をして、ヨシテルは、自分の部屋に戻った。
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