第2話

 教室のざわめきが耳の奥に残っている。

 なんといっても新しい「ルカ」は年頃の子供らの間で一番の関心事であったし、にもかかわらずクラスメイトのエフワンはそれをセンセーショナルなかたちで今日、皆へ披露したからだった。

 「育ち盛り」の言葉とおり、目覚めるたびに背が伸びているようなクラスの中でエフワンは特に目立って背が伸びおり、それは傍から見ても外見の歪さが明らかと分かるほどだった。だからしてピージーのみならず、口にせずともクラスメイトの誰もはずきっと近いうちその日は来るだろうことを予感しており、口に出さないからこそ牽制そのものエフワンを視界の端に置き続けていた。

 けれどエフワンの誕生日がいつなのか。大事なことを気に留めていた者はいなかったようだ。不意打ちなどとエフワンにしてみれば心外だろうが、クラスメイトにしてみれば食らわされたようなそれは月曜日だった。


 引っ提げて、教室に現れたエフワンはいつもと変わらぬ面持ちで、肩のカバンを自分の机へとおろしている。そうしてこれまたいつも通りと、中身を机の下へ移し替えていた。一部始終はあまりに自然で、すっかり周囲に馴染むと最初しばらくは誰も気づいていないような具合でもあった。

 だがそう平穏が長く続くはずもなく、まもなく隣の席の女子に気づかれている。彼女が上げた声は甲高く、きっかけに教室の隅で輪になり話し込んでいた男子らさえもが振り返ることとなっていた。

 そうして注目を浴びたところでエフワンは、きっちり教科書を最後の一冊まで机の下へ移し替えている。淀みのない仕草はむしろ皆へ見せつけているようであり、見せつけることで事実をもったいぶっているかのようにも見えていた。おかげでなおさら流行りに敏感な女子は目を輝かせその動きを追い、好奇心に引き寄せられるまま教室のあちこちから男子も押し寄せると、エフワンの机を囲ってゆく。そんな感情をむき出しにしたくない幾らかだけがどこか冷めた眼差しで、遠巻きにうかがっていた。

 ようやくカバンをカラにしたエフワンは、机の片側へ引っ掛けている。まさに満を持すと、引っ提げて来たそれをみんなの前に掲げた。

 新しい「ルカ」はやはりロテックス社の最新式だ。

 「わあ」とクラスメイトの間から少なからず声は上がり、その中に混じってピージーも息をのむ。

 それもそのはずと粗暴に扱われることの多い子供用には必ずある、可動部の大きな保護カバーがない。滑らかさと、機能性を重視したフォルムは美しいほどに引き締まっており、傷ひとつない外装もまた子供用によくある原色のパッチワークや甘い単一のパステルカラーとは一線を画したオフホワイトだった。唯一、動くたびチラチラのぞく内側の位置にロテックス社のホログラムロゴはあしらわれると、目にしたピージーなど自身の「ルカ」をオモチャのように感じ、そうも幼稚なものを持つ自身をとんでもなく恥ずかしくさえ思ったのだった。

 いや実際、クラスメイトの誰もはそのとき嫉妬と羨望の眼差しを向けていたのだから、それはピージーだけの事ではなかったのだろう。

 エフワンはもう同い年の同級生ではないかのようだった。知っているから振りまいて、エフワンも堂々言い放っている。

「うん、まあ見ての通りだよ。昨日はぼくの誕生日だったからね。前のはずいぶん短くて不格好になっていたし、相談してパパとママに新しい腕を買ってもらったんだ」

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