第33話魔法使い

「…ごめんケラー、俺があいつを殺したい!」


「ちょ、ちょっと!」


掴まれていた裾から離れようと、服が伸びていくのを感じながら強引に引っ張ってようやく抜け出した。


「危ない!ダメだって!」


「あいつが行くなら俺も行かないと!」


「トニーまで…」


トニーもレンドラピオを使った加速によって最前線へとすばやく辿り着いた。


「うおおおおお!」師団のスキルに巻き込まれる可能性だってあるのに、あんなに懸命に…怖くないのかな。



体がぶつかり合ったり、攻撃を受けたり、この世界がゲームだからそれが出来るの?



…でも、命懸けでここまで連れてきたのも私。戦わないといけないってそう言ったのも私。


ここまで仲間のために必死に戦ったんだよ…私!


なんでこんなに怖がってるんだ、私。



「ケラー?君、魔法は詳しいのにまったく戦わないんだねw」

「一丁前に魔法使いっぽいスキル持っちゃってさ、いいよね…楽で。」



このゲームの世界はいつしか遊ぶ世界から戦う世界に変わった。



現実世界に嫌気がさしてやってきたゲーム世界なのに、なんでまた戦わなきゃいけないの?



私がここに来たのは戦うためじゃない、楽しむためなのに。


「なーんだ、遊びだからこんなに弱かったのかー」


「本気でぶっ倒してやる!サンダーランド!」



あの時も凡ミスで負けたし…私ってなんでこんなに弱いんだよ。スキルだけ一丁前に、、



「ケラーああああああ!!サンダーランドがまずい、頼む!」



「サンダーランド…?」


「サンダーランドが、吹き飛ばされた!!落ちたら、死んじまう!」



「ふははっ、、!奴は死んだな、私の全力を受けたのだぞ?生きてられるわけがないッ!」


「貴様ぁ!」


周りを見渡すと空を風のようなスピードで飛んでいるサンダーランドがいた。しかし、それは明らかにいつものサンダーランドでは無かった。身体が動いていなかったのだ。



「どうしよう、どうしよう、、助けないと、助けないと……!」



「ケラー、早く動け!!」



どうしよう…!


「すげえ、空を自由に!ケラーってこんなこと出来たんだ」



「出来るわよ、それくらい。私を誰だと思ってんのよ。」


ああやって強がったりして、私ってなんなの…。


こんなに弱いのに、魔法使いなんかじゃないのに…!



「ケラーあああああああああッッ!動け、仲間を守れ!!!」



仲間を…守る、、守んなきゃ、仲間にもなれないじゃない!!



「こい!魔法のホウキ!」


スキル発動

魔法のホウキ



「サンダーランドー!!!!」



「頼んだぞケラー!」



「任せて!」


ここで助けなきゃ私はあなたの仲間では居られなくなる。



そんなのいやだ!!!


魔法使いなんかじゃなくても、戦いが怖くても、仲間を守る私が私だ…!


雨と雷になにか熱が混ざっているような、まさに状況はカオスだった。しかし、それでも目の前に見えるサンダーランドに私は必死で手を伸ばした。


雨を切って重い空気を切って


「とど、け…!」


サンダーランドは硬直してまったく動かない。サンダーランドはもう少しのところで下にある森林に落下してしまう


「ダメだ、!」


雨と雷、強風に振られてサンダーランドの体がフラフラと揺れ落ちて上手く掴めない。



「まずい、本当に死んじゃう!」



「マチルダ、この雨を止めろ!!」



「無理な頼みだなぁ!」



「届いて、お願い!!」

「起きて、起きて!!」



サンダーランドの体はいよいよ森の中へと進み始め、そして硬い土の上へと進んでいった。



「ケラー!早く!!」



「もう、突っ込むしかないっ!ホウキ、絶対に耐えてっ!」

「いっけえええええええええ!」



仲間を守る、仲間を、仲間を!


「がっ、!!!」


森林の中を無理やり進んだことで、木の枝と葉っぱが私の体とホウキに刺さり、まとわりついた。それに気付き、体に激痛が走った。


だが、狙いは変わらなかった。サンダーランドの体を守る、これが全てだった。


ズサアアアアアアアアアアア


土が擦れ、土埃がたった。


「サンダーランド…!」



その土埃すらかけないようにサンダーランドを強く抱きしめた。



「やった、、届いたよ…!」



土に落下しそうになったサンダーランドをすんでのところで体を支えることに成功したのだ。



「よかった…」



「ん…ケラー?助けてくれたの?ありがとう」



サンダーランドは体を辛そうに無理やり起こした。



「ダメ、じっとしてて。もう戦わなくてもいいから。」



「大丈夫だよケラー。それより、ホウキボロボロだよ、?」



「平気平気!こんなの予備はいっぱいあるから!」



「ケラーはすげえな、ちゃんと後のことを考えてる。俺は突っ込んで迷惑かけてばっかりだ…」



「へ?そんな、そんなことないって!」



「ケラーが居てくれて助かった。ケラーは本当に強いね。」



「私、強くないって」



「どうしたの?前みたいじゃないね」



「あれは全部強がりなの、本当は弱いから、私。」



「何言ってんのケラー?ケラーは俺を守ってくれた、何度もね。ケラーは本物の魔法使いみたいだよ!」



「わたし…が、?」



「うん、ケラーは本当に強いよ!」



魔法使い……私こそ、魔法使い!



「ごめん、いつもの私じゃなかったね。私は強いよ!」



「おう!その調子だ!」



サンダーランドは気付かないみたいだね。私、心臓がドキドキしてるし、涙も出てるんだよ?


雨と雷で気付かないみたいだね。

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