第14話世界中のどこに居ても モンスターダービー⑥
「レーファン!レーファン!」
猛毒のせいなのか、視界がぼやけるし耳も上手く聞こえない。誰か来てくれたのか?誰だ、誰が?意識が朦朧としてきた、もう死ぬのか?こんな森の中で。俺はゲーム世界で死ぬのか?俺は、こんなんでいいのか……
◆
「レーファン、鬼ごっこしね?」
「レーファン、バスケしね?」
「レーファン、レーファン!」
「おいニュートン!毎日大声で俺の家の前で名前呼ぶやつやめろ!近所迷惑だし恥ずかしい」
俺の家のすぐ近くに転勤族のある家族が引っ越してきた。その家族には俺と同い年の子供もいて、気付けば仲良くなっていた。
「俺、ニュートンって言うんだ。よろしく!」
「はい、よろしくお願いします。」
「え?なんで頭下げるの?同い年だよ!」
「礼儀です。」
「れいぎ?お前それ言うならねぎだろ!今持ってんの?」
「礼儀だよ!!!」
俺の父親が政治家で、母親が弁護士。そんなガチガチまじめな家柄なもんだから俺も人と接する上での常識をすぐに叩き込まれた。
でも、ニュートンは俺とは全く違かった。毎日俺の家の前に来ては大声で俺の名前を叫ぶ。こんなの失礼極まりないことだと俺は思っていたが、どうやらニュートンにとってそれは当たり前のことだったらしい。
「頭なんて下げて、変なやつだなお前は。」
「常識だよ!この世界の!」
「常識とか知らないし!だいたい、頭を無理に相手に下げなくても殺されるわけじゃないしさ、むしろフレンドリーなやつはそんなことしないし、しないほうが俺はいいと思う。いちいち気にしてよ、そんなに世界って心が狭い人だらけなのか?」
「いや、それは……知らないけど」
「だろ?!だから気にすんなって。誰にも頭なんか下げなくていい!それを許してもらえるぐらいの人間になればそれで終わりだろ?まあこの話はいいから、早くバスケ行こうぜ!」
俺はあいつの言葉にやけに納得してしまった。なんか、あいつの言ってることが世界の全てな気がした。世界を1周なんてしたことがないけど、世界なんて映像でしか見た事がないけど、いちいち礼儀なんて気にしなくても生きていける世界ならどれだけ楽だろうか?
俺はこのまえニュースで見たどこかもわからない遠い場所で行われている戦争を思い浮かべながら、すぐ近くにある体育館へと向かった。
俺はその日から礼儀を疑問に思うようになり、遂には両親に話すことまでになった。
いざ、話してみると改まった顔の両親の顔がすっと解けた。
「なーんだ。そんなことなら別にいいんだぞ?レーファン。常識とか礼儀ってのはな、自分が守りたいと思った時に使えばいいんだ。おかしいと思った時に嫌々つかう礼儀は本当の礼儀じゃないんだ。おかしいって思ったらおかしいってはっきり言うことだ!これを覚えておくんだぞ。」
「うん!」
俺の心の縛られている部分が優しく解かれていった。やっぱりそうだったんだ。ニュートンが言ってることは正しいんだ!お礼、言わないと!
だが、その後の出来事でそんな思いなんて軽く吹き飛ばされてしまった。
「お父さんがまた転勤だって言われたみたいだからさ。今度、こっから遠い場所に引っ越さないといけなくなったんだ」
「……わかんない。どうすれば」
「いや、つまり、ここからいなくなるってことだよ。」
「わかってるよ!そうじゃなくて、ニュートンとこれからどうやって遊べばいいかを考えているんだよ!」
「そんなの、無理だよ。何があっても、絶対無理。」
「ゲームだ!仮想現実のゲームが最近開発されてるらしいよ!それを使えばいいんだ!」
「え?かそう?ゲーム?」
「うん!その世界ならもう一回君と出会える!」
「このゲームなら世界のどこにいても繋がれるんだ。しかも、無料だよ!ねえ、会おうよ!」
「……俺、ゲームなんて知らないけど、とにかく機械さえあればいけるんだな?」
「うん!」
「わかった!やってみる。また、会おうぜ!」
◆
「ああ、俺、まともに喋れてんのか?意識がやべえ…。今のが走馬灯か、ゲームでも見れるんだなぁ」
「レーファン!レーファン!俺の声、わかるか!」
「ずっと話しかけてるのは誰だよ。もう、死ぬんだけど…」
「ニュートンだってば!!俺だよ!!」
「ニュートン……ニュートン!?なんだ、くっそ、ちょっとだけぼやけが治ってきたけど、、」
「待ってろ!今すぐ向かう。」
「でも、モンスターは?!」
「大丈夫、一時的にモンスターを弱らせることは可能だ!それが終わり次第、向かう。だから、待っててくれ!」
「うん。わかった。」
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