第31話 なにが起きてるの!?(エーリカ視点)

side:エリーカ・ハーネット。


『なんなのよ、これ……!』

 エーリカは占いの館の中で、何度目かの叫びたい気持ちにかられていた。


 占いの館に行くたびに、今日の分は終わりました、と言われてしまうのだ。誰かに好感度を操られている。恐らくは、あの女に。


 本来この世界はアペンドディスク、つまり追加ディスクの世界だ。本編を持っていないと遊ぶことの出来ないゲームの内容。


 本編にはなかった追加攻略対象者、アドリアン王子やルイ・ランベール侯爵令息攻略ルートがあることが、それを証明している。


 占いの館で特定の好感度を上げようとするたびに、既に好感度が高くなった攻略対象者たちが、立ちふさがるのは想定の範囲内だ。


 だが、この世界の難しさは、本編、アペンドディスク、ファンディスクが混ざったかのようなところにある。


 アペンドディスクにだけあるハーレムルートでは、本編で選んだ選択肢とは、異なるものが好きだったりして、アペンドディスク初挑戦のユーザーを悩ませたりもした。


 その選択肢が混在しているのだ。

 今回は本編の選択肢なのか、それともアペンドディスクの選択肢であるのか。ゲームの時以上に、それがエーリカを悩ませていた。


 好感度が上がり過ぎないように。

 かと言って下がり過ぎないように。

 微調整しながら会話をすることになるから、とにかく慎重さを要求される。


 何十周と繰り返した会話でも、正直実際にリアルな人間として話を振られると、ニュアンスの異なる部分があるものだ。


 何より、以前話した内容を持ち出して来たり、ファンディスクでしか話されなかった内容までもを、突然入れ込んでくる。


 マクシム・ミュレール王弟殿下の好感度調整に失敗したのはその為だった。父親のハーネット男爵から、どうやら不倫の件で動いているようだと聞かされたのはかなり前の話。


 ゲームと現実で違うのは、選択を誤ってから実際にバッドエンドになるまでに、数値を動かす時間があることだ。


 ゲームだとマクシム・ミュレール王弟殿下の好感度が上がり過ぎた時点で、即告白、即バッドエンドまで進んでしまい、何もすることが出来ないが、この世界は違っていた。


 攻略対象者の会話をスキップ出来ないように、時間がリアルタイムで流れていく。

 それがエーリカの武器だ。

『取り戻せるわ、まだ……!』


 だから占いの館でマクシム・ミュレール王弟殿下の好感度を下げつつ、あの女に対するアドリアン王子の好感度を下げ、更にはアドリアン王子に魅了の魔法をかけたのだった。


 本来選択肢にない筈の、あの女の名前が占いの館に現れた時、エーリカは勝利を確信した。ライバルに対する、攻略対象者の好感度調整。これが星姫2の特徴だ。


 親しくなる、を選ぶと、攻略対象者の誰と親しくなりたいかを選択が出来る。選んだ攻略対象者と、誰の好感度を変化させるのか。

 ここでライバルを選択出来るのだ。


 贈り物にわざと失敗すれば、選んだ攻略対象者と、自分、またはライバルの好感度を下げることが出来る。本来3のヒロインが、ライバルとして選択肢に現れることはない。


 だが選択肢に現れたアデル・ラーバント。

 2と3の世界が混ざっているからこそ、恐らく占いの館にもバグが発生したのだ。


 あの女に目の前で冷たくするアドリアン王子の態度に、エーリカはとても胸がすいた。

 あの女の星読みの聖女としての力は、開花しつつあるようだとエーリカは感じていた。


 本格的に開花してしまえば、星読みの聖女の予言を超えることは不可能で、3の悪役令嬢同様に、自分が断罪される側にまわる。


 星読みの聖女を乗っ取る手段はもう使えない。本来開花するのはかなり後半になってからの筈なのに、こんなに早く開花したのは、2と3の時間軸が同じだからかも知れない。


 2の世界がエンディングに近付いているということは、3の世界もエンディングに近いということ。本来であれば3の攻略対象者との関係が、かなり進んでいる頃だ。


 それに追いつかせるように、急速に能力が開花したと見ていいだろうと考える。

 あの女がアドリアン王子を落としたのも、恐らくそのバグが関係しているのだろう。


『同時に転生者が現れるなんて……!

 それも3のヒロインには不可能な、アドリアン王子ルートを狙うなんて!』


 アドリアン王子ルートではまずマクシム・ミュレール王弟殿下の、ヒロインへの好感度を上げ、ルイ・ランベール侯爵令息の婚約者への好感度を上げたところで、ヒロインに対する不信感を生ませることでスタートする。


 今日は何をしようかなという選択肢で、お友だちの為にやってあげようかな、というていだ。実際魔女エンドでは攻略対象者たちの婚約者は、ヒロインと仲の良い友人となる。


 攻略対象者たちには好感度が存在するが、ネームドモブたちにも信頼度というものが存在する。攻略対象者の婚約者に対する好感度を上げると、婚約者の信頼度が上がるのだ。


 マクシム・ミュレール王弟殿下のヒロインに対する好感度や、婚約者に対する好感度がフラットだと、疑うことをしないランベール侯爵令息が、普通に落とせるルートに入る。


 マクシム・ミュレール王弟殿下のことをランベール侯爵令息が調べようとしないので、アドリアン王子はランベール侯爵令息の変化に気付かない、という設定だ。


 ランベール侯爵令息が不信感を持つ相手。

 これがアドリアン王子が近付いてくる鍵なのだ。興味を持ちつつも、最初は近寄って来ない。不信感を持っていた相手と仲良くなっていくのを見たことで、関心を持つのだ。


 それほどにアドリアン王子という人物は、そして逆ハーレムルートというのは難しいのだ。エーリカの狙う逆ハーレムエンドの為には、アドリアン王子は必要不可欠だった。


 そうしてエーリカがルイ・ランベール侯爵令息を虜にし、魔女の弟子ルートに入ろうとしたタイミングであの女は現れた。


 それは3のヒロインには出来ないこと。

 エーリカがそうするまでは、アドリアン王子の攻略ルートは現れない。


 エーリカが暗躍するのを見守って、高みから笑いつつ、アドリアン王子ルートが現れるのを待っていた。そうして見事にかっさらっていったのだ。エーリカの代わりに。


『ゆるさない……。

 絶対にゆるさないんだから……!』

 エーリカはまだ、アドリアン自身が、星姫3の世界に取り込まれたことを知らない。


『でもだいじょうぶよ。私はもう、魔女の力を手に入れたもの。魔女の魅了は占いの館のそれとは違う。あの女にだって、私の魅了で動かした心は変えられないもの。ふふ……。』


 エーリカは万が一の時の為に、ステータスの調整のため、魔女の館に通いつつも、王弟に遭遇さえしなければ、アドリアンにプロポーズさせることは可能だと確信していた。


『念の為、毎日重ねがけしなくちゃね、魅了の力が途切れないように。みんな私に夢中だもの、あとはアドリアン王子さえ手に入れれば、ヒロイン王妃の爆誕よ!』


────────────────────


少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。

ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る