第30話 たった1人の戦い
「あるわ。朝1番にとれた、ミニネの葉についた朝露よ。これは薬の材料に使うから、冒険者が集めて、薬師ギルドで売ってるの。
薬師以外が買える分は、毎日は売っていなくて、数が手に入らないから、たくさん買いだめするのは難しいでしょうね。」
「それを私にだけ手に入るようには、出来ますでしょうか?」
「ハーネット令嬢にも気付かれるし、しばらく薬師からの反発があるでしょうね……。」
「無理……ですか。」
「あら。そうは言っていないわ?そうなるでしょうけど、傾国に対抗するには必要不可欠だわ。私の方でなんとかするわ。」
「ありがとうございます!」
「私が邪魔をしているのに気付かれたところで、王妃の私に対抗する手段なんて、彼女にはないものね。安心してちょうだい。」
「他に手に入りにくいものはありますか?」
「そうね……。崖の上にしか生えないラクサの花だとか、ミニミィ鳥の卵だとかかしら。
これは冒険者に依頼するしかないけど。
それでもミニネの葉についた朝露の比較ではないわね。他と比べて手に入りにくい、というだけで、ある程度通年で流通しているものよ。だから既にたくさん彼女の手元にある可能性があるわ。
これは販売を差し止めたところであまり効果はないでしょうね。もともとの流通が少ないミニネの葉についた朝露と違って、時間をかければ事前に準備の出来るものだから。」
今回、一気にアドリアン王子の、ハーネット令嬢に対する好感度が上がったことを考えると、確かにその可能性が高いと思うわね。
「彼女の持っているものは、そのままでいいと思います。私が彼女より先に、占いの館で好感度を上げてしまえばいいだけなので。」
「そうね、その方が良いわね。占いの館で好感度が上げられるのは、1日に最大3回までよ。最大3回まで、占いの館が町に出るの。
そのすべてを邪魔してしまいなさい。」
「ありがとうございます!
私、頑張ります!」
私はグッと拳を握りしめてそう言った。
「ふふ。そんなに感謝されると、なんだか照れくさいわ?将来の娘の為ならこのくらいのことは大したことじゃないもの。」
王妃さまが美しく微笑んだ。
そう言ってくださる王妃さまに、なんだか照れくさくなってくる。
「もう気持ちも落ち着いたでしょうし、お引き取りいただいて結構よ?」
「心配いただいてありがとうございます。
……王妃殿下にお時間をとらせてしまったこと、本当に申し訳なく思います。
今日のところは失礼しますが、また是非お礼に伺わせていただきますね!」
「あら、嬉しいわ。ぜひ良い結果を聞かせてちょうだいね。もしもまた、私の力が必要になったら、遠慮なく訪ねてちょうだい。
ミニネの葉についた朝露や、その他の魔女の欲しがるアイテムは、あなたの家に届けさせてもらうから。」
「わかりました、よろしくお願いします。」
私は来た時とは反対の、軽やかな気持ちで王宮をあとにした。
次の日から、私の戦いが始まった。
ハーネット令嬢よりも先に、占いの館に到達し、好感度を上げる為の戦いだ。
まずは王妃さまから聞いた、魔女の欲しがるアイテム。これは昨日のうちに自宅に届けられていた。魔道具といい、初めからそのつもりで、用意してくれていたんだと思う。
占いの館が立つのは1日に最大3回。
そのうちのすべてで、同じアイテムを欲しがることもあると言う。
出てくる場所と、欲しがるアイテムが、規則性によって決まってしまうから、それに従って占いの館が立った結果、欲しがるアイテムが同じものであることがあるからだそう。
だから私はお父さまにお願いをして、マジックバッグを準備して、それぞれのアイテムを3つずつ中に入れた。これで準備万端だ。
放課後、私は王都近くの町に向かった。
王妃さまからいただいた魔道具に、占いの館が現れる条件をセットする。
占いの館が出る場所は5箇所。噴水広場、校舎の裏、教会の脇、王宮の近く、そして植物園。ようするにこれがゲームの中での、デートスポットだということだ。
曜日……月曜日。
天気……晴れ。
時間……夕方。
私はこの条件を魔道具で選択する。
すると場所が噴水広場だとわかる。月曜日の晴れで夕方の広場なら、欲しい物がミニミィ鳥の卵だと、更にはじき出されるのだ。
ちなみに各攻略対象者事に、好きな場所と苦手な場所があって、苦手な場所に行くと好感度が下がることもあるし、好きな場所に行くと当然上がりやすくなるらしい。
ちなみに学園の中や、攻略対象者の実家、などというデートスポットも存在するけど、当然そんな場所に占いの館は出没しないので、今回そこいらへんは無視だ。
……本当ならこれを、私はアドリアン王子と一緒にしていた筈だと思うと、泣きそうになってくる。私は手の甲でグッと、こぼれてきそうになった涙を拭った。
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