第16話 この世界の説明

「私がこの世界に転生したのは20年前の話よ。私は星姫1のヒロインだったの。」

 ヒロイン。

 ハーネット令嬢も言っていた言葉だ。


「そこで攻略対象者──現在の国王様ね。彼と結ばれて子どもが出来たの。だけど話はそこで終わらなかった。なぜなら続編があるから。星姫2はその子ども世代の話なのよ。」


 うん、今のところ、さっぱりわかんない。


「星姫2のヒロインは、あなたも知っているエーリカ・ハーネット令嬢ね。彼女が私の子どもたちを含む攻略対象者と親しくなって、結ばれるのが2の展開なの。」


「そのコウリャクタイショウシャというのはひょっとして、レオナード・イェールランド公爵令息たちのことでしょうか?」


「そうよ。そして本来そこに、あなた──アデル・ラーバントはいてはおかしいの。」

「え?どういうことですか?」


「あなたは本来、星姫3のヒロインだから。

 そして星姫3の舞台はマイルス公国。

 ラーバント子爵家は事業に失敗して、マイルス公国に渡るところから話が始まるの。」


 その言葉を聞いてギクッとする。

 我が家は私が小さい頃、今よりも困窮していた。それこそ親戚を頼って、マイルス公国に行こうという話が出ていたのだ。


 だけど私の夢によって事業が持ち直し、なんとか生まれた国を出ずに、暮らせることになったという経緯があるのだ。


「その……。そういう話は、子どもの頃に出ていました。マイルス公国に行くという。」

「そうなのね。あなたの無意識の行動で、未来が変わってしまったということね。」


「そう、なんでしょうか……。」

「あなたと本来結ばれる筈の人は、マイルス公国にいるのよ。あなたがここにいるのは、かなりのイレギュラーね。」


「それ、ハーネット令嬢も言ってました。私がここにいるのは、イレギュラーだって。」

「だけどさすがはヒロイン。本来の攻略対象者じゃないのに、結ばれてしまったのね。」


 聞けば聞くほどわけがわからない。王妃さまの話を丸ごと信じるのなら、私の運命の相手は海の向こうということになる。


 本来アドリアン王子とは、結ばれる筈がなかったということだ。

 それを聞いて、少し胸がチクリと痛む。


「だけど、トリスタンたちの状況を見る限りでは、彼女は逆ハーレムルートを目指しているようね。その失敗を恐れて、あなたに絡んで来たというところかしら。」


 あ、アドリアンから話は聞いていてよ、と王妃さまが微笑む。

 逆ハーレムルート……。確かにハーネット令嬢が目指しているのは、それなんだろう。


 男性たちに囲まれて、アドリアン王子という伴侶を手に入れつつも、他の男性たちからもチヤホヤされる未来。夢で“視”た限り、それは逆ハーレムと言って相違ないものだ。


「このままいけば、ハーネット令嬢はおのずと破綻するでしょうね。

 逆ハーレムルートは難しいもの。

 だけど、あなたというイレギュラーがいることは、逆に彼女のチャンスでもあるわ。」


「……どういうことですか?」

「本来のルートに存在しない、あなたという存在がいることで、星姫2の世界は既に書き換えられてしまった。それは私の知っている星姫2と同じにはならないということよ。」


「そう……ですね、王妃さまがおっしゃる通りなのであれば、私は本来、アドリアン王子と結ばれてはいけない存在だから……。」


「そうね。この場合、ゲームがどちらを悪役令嬢と判断するかということね。」

「──悪役令嬢?」


「ヒロインと攻略対象者を邪魔する、いわば悪役よ。本来であれば、アイシラ・イェールランド公爵令嬢たちがそれにあたるわ。」

「……婚約者ですよ?」


「そうね。だけどそれは貴族の決まり事で決められたもので、お互いが愛し合っているわけではないわ。真実の愛の前にはおじゃま虫ということよ。それが乙女ゲームなの。」


 よくわからない世界だなあ。

「あなたはどこまで能力が開花しているの?

 本来であればマイルス公国に渡ってから、開花することになっている筈なのよ。」


「能力……?」

「星読みの聖女としての力よ。どこまでどんな風に未来が見えているの?」


「ええと……。私の予知夢って、ハーネット令嬢に関することがほとんどなんですよね。

 だから国に関することとかは、正直あまりよくわからなくて。」


「ハーネット令嬢に関することがほとんど?それはおかしな話ね……。3のヒロインが、2のヒロインの夢ばかりを見るなんて。」

 王妃さまは思案顔でうつむいた。


「はい。何度も同じ夢を見るんです。その場所や出来事を、俯瞰で見てる感じで、既におきた出来事を繰り返し眺めてるみたいな。」

「──俯瞰で見てる?」


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