第17話 王妃さまの気持ち
「いつも視点は同じで、普通の夢は色んな角度に視点を移せるのに、視界が固定されていて動かせません。それにいついつ、何がおきた、と文字が見えるんです。」
「それって……。ゲームのウインドウってことではないの?」
「──ウインドウ?」
「そうよ。たとえば……そうね。」
王妃さまが軽く手を上げると、遠くで控えていた女官が近付いて頭を下げる。
「紙と書くものを持ってきてちょうだい。」
女官が戻って来ると、王妃さまはなにごとか、サラサラと紙に書き始めた。
「確認して欲しいのだけれど、それってひょっとして、こんな風じゃなかったかしら。」
王妃さまが見せてくれたイラストは、まさしく私がよく見る予知夢そのものだった。
「それ……!それです!」
どうしてわかるの!?すごい!!
「これでわかったわね。ラーバント令嬢。
あなたも転生者だということよ。ただしその記憶が戻っていない。ゲームの画面だけを夢で思い出して見ているということね。」
「そのテンセイシャって、なんですか?」
「前は別の世界で生きていた人間が、死んでこちらの世界の人間として生まれ変わったということよ。私たちのようにね。」
「私が……テンセイシャ?」
「ええ。あなたもきっと、星姫を遊んでいたユーザーだったということよ。だから星姫のゲーム画面を夢に見ているということ。」
「私の……、前世……。」
「あなたが見ている夢は、あなたの前世の記憶なの。つまりあなたはまだ、星読みの聖女としての能力が開花したわけじゃない。」
「そうなんですね……。」
「つまり今のあなたは、ハーネット令嬢と何も変わらない状態だということよ。だとすれば、ハーネット令嬢がアドリアンと結ばれる未来もまだ存在するということね。」
「え?どうしてですか?」
私があの、おっかない令嬢と同じ!?
ごめんこうむるわ、そんなの!
私の表情を見て、考えていることを察したのだろう、王妃さまが眉を下げる。
「ごめんなさいね、そういう意味ではないのよ。もしもあなたが見ている夢が、ただのあなたの前世の記憶なのだとしたら、同じゲームをしていたハーネット令嬢も、当然同じ予言が出来るということよ。」
「あ……。」
そうか、私とハーネット令嬢が同じ記憶を持っているのだとしたら、私に出来る予言はハーネット令嬢にも出来ることになる。
「アドリアンは、あなたを星読みの聖女として、国王さまに婚約を認めさせたわ。だけど同じことが出来る令嬢がもう1人いるとしたら、その子が取って代わることは出来る。」
「アドリアン王子の婚約者を、私からハーネット令嬢にすげ替えることも……。」
アドリアン王子が、ハーネット令嬢と婚約する……。嫌だわ……。すごく……。
「可能でしょうね。3のヒロインがこの場にいなければ、ハーネット令嬢がそんな行動を起こすことはなかったでしょうけど、イレギュラーとして存在するのなら話は別だわ。」
「星読みの聖女の立場を奪おうとすると、自分が危険になるからですね?だけど今は排除したい存在として、星読みの聖女が近くにいるから、むしろ奪おうとしてくると……。」
「ええ、おそらくはね。近々あなたが星読みの聖女ということ、アドリアンと婚約したことを正式に発表する予定よ。」
もうそこまで決まってるんだ。
「そうすれば婚約の経緯をハーネット令嬢は知ることになるでしょう。他の聖女さまと違って星読みは成り代わることが出来る。なぜなら予言は引き起こすことが可能だから。」
「実現可能なことを、予言として言って、それを実際に引き起こせば、相手を信用させられるから、ですか?」
「ええ、そうよ。3の悪役令嬢は、実際そうしてアデル・ラーバントから、星読みの聖女の立場を奪おうとするの。
ハーネット令嬢とあなたの知識は同じ。だとすれば奪うことはたやすいでしょうね。」
「そんな……、私、どうすれば……。」
「アドリアンが……好き?」
「えっ?と、突然なんですか?」
「大切なことよ。アドリアンが、好き?」
私は考えを巡らせた。
「まだ……よくわかりません。」
正直な気持ちだ。
好きだと言われたから、結婚して欲しいと言われたから、嫌いじゃなかったから、頭が真っ白なまま婚約したけれど、好きかと言われると、まだよくわからないのだ。
私が平民だったら、嫌いじゃない、という程度で結婚したりしないんだろうな。そのうち好きになれるかも、って思わせてくれるだけでも、貴族としては御の字なんだもの。
「そう。ならば私はあなたの味方をするわ。
娘にするならあなたがいいもの。」
「え?なぜ、でしょうか?」
私、よくわからないって答えたんだけど?
「これがハーネット嬢であれば、はい!と元気よく答えたでしょうね。だって逆ハーを達成すれば、アドリアンは王太子だもの。トリスタンのことなんて忘れて、ね……。」
「はい、たぶんそうだと思います。」
彼女は夢の通りにするつもりだろうから。
「私、逆ハーって好きよ。私もゲームをやっていた時は目指したしね。だけど……。」
王妃様は紅茶の入ったカップのふちを指でなぞった。
「実際自分があの子たちの親になってみたらとんでもないことだわ。トリスタンの気持ちをないがしろにして、逆ハーの為に物のようにアドリアンを手に入れようとするハーネット令嬢の思う通りになんてさせたくない。」
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