第15話 王妃さまとのお茶会
「失礼ですが兄上。いわれなき罪で恥をかかされたのは、私の婚約者のほうだ。
その娘がどれだけ可愛いのか分かりませんが、あまりご自分を見失いますな。」
「許さん……。絶対に許さんぞ……!」
「兄上にもいずれ分かる時が参ります。
その時までにもう少し冷静になれるとよいですね。……難しいかも知れませんが。」
憎々しげに実の弟を睨んでいるトリスタン王太子を、冷たく突き放すアドリアン王子。
「──そう言えば、どうしてこっちの様子に気がついたんですか?」
アドリアン王子の教室は、私の教室とは中庭を挟んで斜向かいなのだ。私たちがいる階段は教室を挟んだ真ん中にある。
階段を降りようとしていたらこちらに背を向けることになるから、余計にこちらの様子になんて、気が付かないでしょうに。
「ああ、そうだった。ラーバント令嬢に用事があって、そちらに向かう途中だった。」
「私に用事、ですか?」
「母上がお茶会に君を招待したいそうだ。
招待状を預かっている。」
「お、お、お、王妃殿下との、お茶会!?」
結婚の申し込みの時とは違う、王妃さまの封蝋がなされた手紙を、アドリアン王子が手渡してくる。
「未来の娘と今から仲良くしておきたいのだろう。イェールランド公爵令嬢とも、よくお茶会をしているようだからね。母上と2人きりだから、気軽に行ってくるといい。」
王妃さまと2人きり!?
いや、それ、逆に全然落ち着かないよ!
せめて他の人もいる集まりなら、少しは間が持ちそうだけど……。
君もあまり彼女に関わるな、と言ってアドリアン王子が去っていくと、教室から顔を出して見守っていた生徒たちが一斉に飛び出してきて、私はもみくちゃにされてしまう。
「ラーバント令嬢、アドリアン王子と婚約って、どういうことですの!?」
「王妃さまとのお茶会ですって!?」
「詳しく聞かせてくださいまし!」
先生に頼まれた資料の入った箱を抱えた私は、人の波を簡単にすり抜けることが出来ずに、その場に足止めをくらってしまう。
あ、あ、あ、アドリアン王子ぃ!
助けてええ!
去っていくアドリアン王子の後ろ姿に助けを求めたけど、今度は助けて貰えなかった。
そしてその週の休日。私はメイドたちに念入りに化粧を施されて、王宮からの迎えの馬車で、涙をハンカチで拭うお母さまに見送られながら、王宮にやって来たのだった。
「はじめまして、ラーバント子爵令嬢。あなたにお会いできるのを楽しみにしていたわ。あのアドリアンを夢中にさせたというのですもの、どんな方なのか気になっていたの。」
「は、はひ……。」
音がしないようにカップを持とうとするのだけれど、震える体がソーサーにカップを当てて音がしてしまう。
豊かなプラチナブロンドを美しくまとめ、涼やかな目元の青い目が微笑んでいる。アドリアン王子は目の色以外は母親似なのね。
国王様は、代々のミュレール王家の人たちと同様に、緑色の目をしているもの。
トリスタン王子が異質なのよね。先祖返りらしいけど、赤い髪にはしばみ色の瞳。
顔の特徴こそ国王さまに似ているけれど、それ以外はまったく似ていない。そっくりなお顔がなければ、王妃さまの不貞を疑うやからがいそうなくらい、1人浮いているのだ。
「それにしても、アデル・ラーバントが星姫2の世界にいるとはね……。
本当に想定外な展開になっているわ。」
王妃さまが顎に手を当てて、うつむきながら何ごとかつぶやいている。
「それで、あなたの前世のお名前は何?
私は美咲愛華と言うの。」
………☆
?
(๑°ㅁ°๑)
間抜け顔でキョトンとしている私に、目を見開いて固まっている王妃さま。
ミサキアイカって、誰?
「……まさか、あなた、ひょっとして転生者じゃないの!?」
王妃さまが驚愕の目線を私に向けながら、ガタッと椅子から立ち上がった。
挨拶をして立ち去る時以外、お茶会で席から立ち上がってはいけないもの。
王妃さまらしからぬ、マナーのなっていない行動に、私は思わず目を丸くしつつ、
「その……、テンセイシャ、って、なんですか?先日別の方からも、同じ言葉を言われたんですが、聞き慣れない言葉で……。」
王妃さまは椅子に座り直すと、
「ごめんなさいね……。
少し動揺してしまって。少なくともあなたのそばには、転生者がいるのね。」
「すみません、仰る意味が、よく……。」
「あなたにその、転生者という言葉を教えたのは、どなた?」
「エーリカ・ハーネット男爵令嬢です。」
「そう……。2のヒロインね。
その子が転生者で間違いはないわね。」
「その、2っていうのはなんですか?ハーネット令嬢は、3、とか言ってましたが。」
「……なにから話せばいいかしらね……。」
王妃さまは思案顔で目線を下げた。
「まずこの世界はね、“星の姫ごと”、通称星姫というゲームの世界なの。」
「ゲーム?」
ゲームって言うと遊戯とかのあのゲーム?
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