第14話 敵認定されました

「その通りだろうが!

 エーリカがこんな大怪我をしたんだぞ!」

 人の話を聞く気のない、トリスタン王太子が私を睨んで叫ぶ。


「違いますよ……。だいたい、今ミュレールさんは階段の上から降りていらっしゃいましたよね?私が彼女を突き落としたのなら、その現場を見ていないとおかしいでしょう?」


「私はさっき悲鳴を聞いて駆けつけたんだ!

 だから現場は見ていない。」

 それがわかっているのに、よくそこまでそんな風に決めつけられるよね!?


「なら余計にそうと決めつけるのはおかしいのでは?いくらなんでも、さすがにいいがかりも甚だしいですよ兄上。」


 アドリアン王子が腰に手を当てて首をかしげ、呆れたようにそう言った。

「お前……、こんな毒婦の肩を持つのか。」

 いやいや、それ、そっちだよね!?


「トリスタンさま……。いいんです、私はだいじょうぶですから……。」

「エーリカ……!

 ああ、君はなんて健気なんだ……。」


 なにこの茶番。


「嘘はおやめなさい、ハーネット令嬢。

 男爵令嬢であるあなたの証言と、第2王子である私の証言、どちらが信用されるか、おわかりでしょう?」


「そんな……!

 私たしかに突き落とされたんです!」

 ハーネット令嬢が悲しげに泣く。


「……兄上、ひとつ伺いますが、私が今、どこから来たと思いますか?」

「廊下だろう。」

「いえ、教室です。」


「それがなんだと言うのだ。」

「私の教室、どちらにあるのか、ご記憶ありませんか?」

「アドリアンの教室?そんなの……。」


 トリスタン王子が窓の向こうを振り返る。

 そして、あ、という表情になった。

 ここの廊下は、窓の向こうに中庭を挟んで反対側の教室がある作りなんだ。


「ええ。私の教室は、その窓を挟んだ反対側です。そこから見ていたんですよ、この廊下を。1人で立っていたラーバント令嬢と、階段から落ちたフリをした彼女を……ね。」


 冷たい笑顔で微笑むアドリアン王子。

「見ていたんですよ、私は。兄上と違って。  

 ──私の証言と彼女の言葉。

 どちらを信じるんですか?兄上。」


「階段から落ちたフリだと!?なぜエーリカがそのようなことをする必要がある!」

「そうだ!いいがかりも大概にしろ!」

 男子生徒たちがハーネット令嬢をかばう。


「さあ?それはわかりませんが……。たまたま下にいた人が、階段の上にいた人間を突き落とすなんて真似は、出来る筈ありませんよね?私、嘘つきは嫌いなんですよ。」


 アドリアン王子が怖い笑顔でハーネット令嬢を見つめると、

「か、勘違いだったかも知れません!階段から落ちたショックで混乱して、その……。」


 と慌ててそう言い出した。

「そうですか。ですがここまでことを大きくしたのですから、責任を取らなくてはなりませんね。ハーネット令嬢?」


「せ、責任?って……。」

「私の愛する、アデル・ラーバント令嬢に無実の罪を着せ、大騒ぎをした。正しく訂正しなければ彼女に悪評がたつことでしょう。」


「あ、あ、あ、あ、愛するって……!」

「何か?別に何も間違っていません。」

 にっこり微笑んでいるけど、その笑顔、ちょっと怖いんだけど!


 怒ってるよ、これは怒ってるよ……!

 あ、あっちもめちゃくちゃ怒ってるわ。

 ハーネット令嬢がこちらを悔しげに睨んでる。狙いはアドリアン王子だもんね。


 うーん、婚約しといてなんだけど、私正直まだ半信半疑なところがあるから、嬉しいと言うより、ただただ恥ずかしいだけなのよ。


 だからそんな風に責めるように睨まれても困ってしまう。私も同じくらいアドリアン王子のことを好きだったら、彼女に対して困惑以外の感情が持てるんだろうけど。


「3のヒロインのくせに……。転生者だからって割り込もうっていうの?素直に自分の攻略対象者のところに行きなさいよ……!

 なんでアドリアン王子なの……!」


 ハーネット令嬢がまた、呪いのように、謎の呪文を呟いている。ヒロイン?テンセイシャ?コウリャクタイショウシャ?なにそれ。


「謝罪の言葉が聞こえないようですが?」

 彼女の呟きを知ってか知らずか、アドリアン王子がハーネット令嬢を追い詰める。


「申し訳……ありませんでした。」

「なんとおっしゃいました?

 聞こえませんでしたね。」


「申し訳ありませんでした!私はラーバント令嬢に突き落とされてなどいません!

 勘違いでご迷惑をおかけしました!」


「謝罪を受け取らせていただきます。」

 私は丁寧にカーテシーをした。目に涙をためて悔しそうに睨むハーネット令嬢。

 本性が隠しきれていなくてよ?怖い怖い。


「アドリアン……、よくも私とハーネット令嬢に、恥をかかせたな!」

 トリスタン王太子が憎々しげに叫ぶ。

 うわっ!とんだ被害者意識!


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