第6話 聖教会支部へ

 その日のうちに両親あてに先触れが出されて、翌日アドリアン王子が迎えに来ることを知った我が家は大騒ぎだった。


「お前、アドリアン王子を射止めたのか!?

 さすが我が娘だ!!

 アデルは本当に可愛いからなあ!」


「ちが……。」


「まあ、どうしましょう。我が家が王族と縁続きになるなんて!

 さっそく親戚中に知らせなくては!」


「待って、話を……、」


「アデル、それで結婚式はいつにするんだ?

 やはり卒業を待ってからのほうが体裁がよいであろうな。」


「そうねえ。でもその前に婚約式は執り行わなくてはね!やっぱり王宮の記念式典に合わせて発表になりますわよね。アニー、マダムロッセにドレスを注文するわ!」


「かしこまりました、奥さま。」


「ちがいます!ただ学園の用事があって、迎えにいらして下さっているだけだから!

 お父さまもお母さまも、ちょっと落ち着いて!プロポーズとかじゃありませんから!」


 私は親バカな両親がヒートアップするのを慌てて止める。両親はあからさまにガッカリして眉を下げた。


 単に聖教会支部で、私の魔力を測定することで、正式に聖女と認めてもらうという目的の為に、アドリアン王子はやって来るのだ。


 あくまでも付き添い。その結果をたずさえて、国王陛下に私が聖女であると認めさせる証拠の1つを手に入れることが目的なのだ。


「婚約者のいないお前が、ようやく春を迎えたと思ったのに……。」


「ごめんなさいね、支度金を持たせられないばかりに、なかなか結婚が決まらないから、私たちも焦ってしまったの。」


 貴族の結婚は、女性のほうが支度金を準備することになっている。だから我が家のような貧乏貴族はなかなか結婚が決まらない。


 よほど見た目がいいとか、魔力が特別高いとかあれば、まあ別なんだけど、私の見た目はまあ……、お察しだ。


 ん?魔力?


 そう言えば、私は再測定で53という数値を叩き出したんだもの。魔力の高い配偶者を欲しがってる家なら需要があるんじゃ?


 そうよ!聖女なわけはないけど、嫁の貰い手ならちゃんとあるじゃない!


「お父さま、お母さま、心配なさらないで。

 アデルはちゃんと結婚してみせますから!

 今に見ていらして下さい!」


 私が虚勢をはっているとでも思ったのか、腰に手を当てて胸を張る私を見て、両親は心配そうに眉を下げたのだった。


 次の日、約束通りアドリアン王子が私を迎えにやってきた。王族!王族専用の馬車!

 すっごい豪華〜!!


 金色の鷹と剣の意匠が王族の馬車であることを知らせているけれど、それがなくともひと目でそれとわかる特別仕様になっている。


 中もフカフカのソファーが敷かれていて、我が家のオシリの痛い馬車とは大違いだ。

 アドリアン王子がエスコートしてくれるのを、お母さまがキラキラした目で見ている。


 はしゃぎたいのを一生懸命こらえているのが、丸わかりでしてよお母さま。


「今日はよろしく頼む。」

「かしこまりました、アドリアン王子。」


 両親と従者たちの手前、楚々とした令嬢であることを装いつつ、アドリアン王子の場所へと乗り込んだ。


 馬車が走り出してしばらくすると、アドリアン王子がフハッと吹き出して笑った。


「ラーバント令嬢はご両親の前だと、ずいぶんと違う女性のように見えるな。」


「両親を心配させたくないんですよ。

 ……そんなに笑わないで下さい。」


 この人、結構笑い上戸だわ。

 私が親の前で猫を被っていることの、なにがそんなに面白いのよ。失礼しちゃうわ。


 馬車の中には、私、私の隣にアドリアン王子、その向かいに従者として、ランベール侯爵令息が苦虫を噛み潰したような顔で、腕組みしながら座っている。


 本来なら私の侍女も連れて行くべきところなんだけど、我が家には私専用の侍女やメイドなんていないからね。


 まあ、まったく色気のない理由での訪問だし、ほぼ強制だったから、正直納得はしていないのだけれど、これから向かう先にワクワクしないかと言われればそうではなかった。


 私にとって。というか、この国の女の子たちにとって、聖教会支部は特別な、そして憧れの場所であるからだ。


「我が国にも聖女が見つかって、これでようやく、7つの国に聖女が揃うな。」

 アドリアン王子が前を見て言う。

 

「……7つの国で聖女が7人?

 あれ?神聖国は?」

 私はふと疑問に思ったことを口にした。


 神聖国に、聖女が集まってる夢を見たことがあるんだけど。神聖国は聖教会支部の本部である、中央聖教会がある国のことだ。


 私の夢は絶対だ。普通の夢とそうでない夢は区別がつく。あれは絶対のほうの夢だ。

 なのに聖女がいないというのはなぜ?

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