第4話 夢の話
「……その……。
断ることは出来ないんですよね?」
念のため聞いてみる。断れるんなら断りたい。関わりたくないもの、こんなことに。
「不敬罪に問われたくなければね。」
底のしれない笑顔でアドリアン王子が微笑んでくる。うう、無理みたいね……。
私は大きくため息をついた。
「その……。どこから話せばよいのか……。」
正直、これを人に話しても、信じて貰えるとは思えないから、話してなかったのに。
「ゆっくりと、ひとつずつで構わない。
君の見る夢は、予知夢とそうでないものの区別はつくのかな?」
「これはいずれかの未来におこることだ、と分かる夢は、はっきりと他の夢と違うので、一応分かります。」
「ふむ、具体的にどう違うのかな。」
「普通の夢の場合は、お話の中にいるみたいに、実感を持って音も匂いもあって、酷く現実的なんです。でも、」
「──予知夢はそうじゃない。」
アドリアン王子が言葉を挟む。
私はコックリとうなずいた。
「その場所や出来事を、俯瞰で見てる感じです。既におきた出来事を繰り返し眺めてるみたいな……。
何度も同じ夢を見ることもあるんです。」
「他に違いは?」
アドリアン王子は手を上げて、ランベール侯爵令息にメモを取らせながら聞いていた。
「いつも視点は同じで、普通の夢は色んな角度に視点を移せるのに、視界が固定されていて動けません。それと、起こる出来事が文字として現れるんです。」
「──文字として?」
「いついつ何がおきたと具体的な日付のあるものもあれば、この出来事がある日にこれも起きたとか、日付のないものもあります。」
「具体的に、どんな出来事がおこって、君はそれを予知夢だと確信したの?」
アドリアン王子が確信をついたことを聞いてくる。
「……エリーカ・ハーネット嬢が、5月というおかしな時期に転入してきたこと。
彼女の周囲の人々が、彼女の虜になっていったから、です。」
「兄上たちのことだね。
それを夢に見ていたと?」
「はい。」
「他にはどんな夢を見たの?」
「3年生が卒業する際のダンスパーティで、その……トリスタンさまが、アイシラ・イェールランド公爵令嬢に婚約破棄を告げて、国外追放なさった、という夢です。」
「国外追放だって!?たかだか王太子権限でそのようなことが出来る筈がないだろう。」
「そうですよね……。後から許可を取る、とトリスタンさまはおっしゃってました。」
「強行したというわけか……。」
「その場でアイシラさまを断罪し、婚約破棄を告げられたので、少なくともお2人の婚約はなかったことになったと思います。」
「そこは分からないのか?」
「私が見たのは、国外追放されたアイシラさまが、追放先で行方不明になったという、文字のみでしたので……。」
ただ、と続ける。
「エリーカ・ハーネット嬢が、トリスタンさまの隣で王妃の王冠をかぶって、結婚式をあげられていました。それと……。」
私はアドリアン王子とランベール侯爵令息をチラリと見上げる。
「なんだ?言いにくいことか?」
まあ、確かに言いにくいけど、これを言わないとはじまらないのよね。
ここが重要なとこだから。
「ランベール侯爵令息も、ハーネット令嬢の虜になって、生涯結婚せずに彼女を支える、という未来もあるんです……。」
アドリアン王子とランベール侯爵令息が目を見開いた。
「なぜ、そのことを……。」
「──ルイ?」
アドリアン王子が驚いた表情で、ランベール侯爵令息を見上げる。
「まさか、お前もか……?」
「──この女に惑わされてはなりません!
エーリカ嬢を悪く言うなどと……!」
「既に手遅れということか……。」
アドリアン王子は、まだ私を睨んでいるランベール侯爵令息を手で制しながら、やれやれ、と、頭を押さえて天を仰いだ。
「……だが、おかしな話だ。
昨日の君の話では、叔母上がハーネット令嬢の父親の罪を暴いて、彼女は学園から消えるのではなかったのか?」
「はい。彼女が失敗したんだと思います。」
私はうなずいた。
「──失敗?」
「この未来には、いくつものパターンがあるんです。」
私は3本の指を立てた。
「──1人目。王太子トリスタン・ミュレール殿下。
──2人目。宰相令息である、マクソンス・シュヴァリエ侯爵令息。
──3人目。騎士団長令息である、オレリアン・マルティネス侯爵令息。
──4人目。アイシラ・イェールランド公爵令嬢の兄君、レオナード・イェールランド公爵令息。
このいずれかと結ばれる場合は、アドリアン王子とランベール侯爵令息はハーネット令嬢の虜にはなりません。
これが1つ目の未来です。」
「だが今はそうじゃない、と?2つ目は?」
「アドリアン王子と、ランベール侯爵令息を手に入れる未来です。
その為には、マクシム・ミュレール王弟殿下と親しくなる必要があるんです。」
ランベール侯爵令息の出来事で、すっかり私を信じる気になったアドリアン王子に、少しだけ冷静さを取り戻した私だった。
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