今日を生きる。
あやと
今日を生きる。
「今日を生きる」
【設定】
美陽(ミハル) 高2
駿斗(ハヤト) 〃
千知(チサト) 〃
美陽は駿斗のことが好き
駿斗は美陽のことが好き
千知は美陽のことが好き
千知も美陽は幼馴染
START!
夏の日差しが照りつける窓際。
がやがやと騒がしい教室。
私は今日もあなたを見つめる。
この想いが届けば、と叶いもしない願いを心の中で呟く。
「みーはるっ何見つめてんのっ」
と、幼馴染の千知が声をかけてくる。
「千知ならわかるでしょ?」
「あー、駿斗のことね。」
と、堂々と相手の名前を口にする。
「ちょ、あんまり堂々と言わないでよ」
そういい、彼に視線を移すが、どうやら気づいてないようだ。彼は友人と楽しそうに話している。
その姿を見てまた自分の心がときめく。
「あ、また見惚れてる笑」
と見つめていた私をいじってくる。
「いちいちいじってくんなっ」
私がそう返したところで次の教科担任が教室へ入ってきた。
「あ、じゃあ僕戻るね。」
と急いで戻っていった。
戻っていったのを確認し、再び彼に視線を移す。残り約半年、彼に思いを伝えられるのだろうか。
そんなことを脳内で考える。
きっと、彼は私を好きにならない。きっと私の片思いだ。
そう自分に言い聞かせ、授業に集中する。
夏の暑さが充満する教室。
静かな雰囲気に響くチョークの音。
今日も俺はあなたを見つめる。
彼女の後ろ姿を見つめながら、この恋が叶うのなら、とただの理想に過ぎないことを考える。
「おい、駿斗聞いてるか?」
と、突然隣から声をかけられる。
「へ、何?」
俺は慌てて振り返った。
「前、見てみろよ。」
そう言われ前を向くと、そこには普段怒らない教科担任が珍しく怒っている顔があった。
「後で職員室な?」
そう言われ、俺は頷くしかなかった。
ちら、と彼女の方を見ると目があった。
見つめることもなくお互いに視線をそらした。
暑さを忘れるほど涼しい図書室。
カタカタと響くキーボードの音。
今日も僕はあなたのことを考える。
作業が一段落したため、背もたれにもたれる。
こんなに静かな部活が他にあるのだろうか。
そんな事を考えながらも、僕な頭にはいつも君がいる。
「千知ー、できたか?」
そんな事を考えていたら、隣から声をかけられた。
「んー、一応一段落ついたとこ。」
そう答え、相手の進み具合も聞き出す。
「こっちはまだまだ。千知の方結構進んでんじゃん。」
そう言われてみると、確かにいつもより書く速度が速いかも、と自覚を持った。
「いつもよりすらすら書けるんだよな。」
そう言って再び画面と向き合う。
今回はまるで自分のことを言っているかのような小説だ。
そういう事もあって書き進めやすいんだろう。
そんな事を考えていれば、脳内に彼女の姿が映し出される。
僕は彼女、美陽のことが好きだ。
この想いはきっと彼女に届くことはない。
彼女は同じクラスの駿斗のことが好きだ。
今日も彼女は駿斗のことばかり。
幼馴染である僕よりなぜ駿斗の方を好きになるのか。
僕には駿斗に対する嫉妬心がいつしか芽生えていた。
また、駿斗も美陽のことが好きらしい。
そのことから、僕は更に駿斗に対する嫉妬心が大きくなっていった。
僕は2ヶ月程前、美陽と駿斗から個人的に相談を受けた。
2人とも恋愛相談だ。
美陽は駿斗のこと、駿斗は美陽のことについてであった。
ここで僕の想いは届かぬものとなった。
あっという間に夏休みが終わり、まだ夏の熱気が残った教室で友人らと顔を合わせる。
もちろん、千知も例外ではない。
「美陽おはよっ。久しぶり」
そう声をかけられ振り向く
「おはよー。夏休みどうだった?」
挨拶を返し、相手へ問う。
「んー、普通。美陽は?」
普通ってなんだと考えながらも自分の夏休みを振り返る。
「私も結構普通だったかな。」
あまり印象深い思い出もなかったのでそう返す。
「進展とかはなかった?笑」
と、冗談混じりのような言い方で聞かれる。
「何聞いてんのよ。別に進展ないし」
呆れながらもそう答える。その答えを聞き、千知の顔が一瞬安心したような表情になった。
その時はあまり気にしていなかったが、後にその理由を知ることになるとは考えてもいなかっただろう。
夏休みが明け、夏の暑さが残る教室でいつもの騒がしさが戻ってくる。
俺も久々に顔を合わす友人との思い出話に花を咲かせる。
その間にも俺の目は彼女に惹きつけられる。
見つめていると、彼女が千知と楽しげに話しているのが目に映る。
それをみた俺は、ほんの少し胸が痛んだ。
身体的にではなく、きっと心の方だろう。
そんな事を考えていると、千知が俺の方に寄ってきた。
そして彼はこう言った。
「放課後、教室にいてくれない?」
と、妙な雰囲気を出しながら彼は言った。
「わかった。」
と、短く返事をすると、彼は自分の席へ戻っていった。
そして、授業も順調に進み、帰りの支度をしていた時だった。
「駿斗くん、今日なにか予定ある?」
そう聞いてきた相手はまさかの俺が恋している彼女だった。
「別にないけど、どうした?」
緊張のあまり、少し素っ気ない返し方になってしまった。
「良かったら、今日一緒に帰れないかなって。」
そういう彼女は少し頬を赤らめていた。
「いいよ。ちょっと放課後呼ばれてるから少し遅くなっちゃうかもだけど。」
そう言うと、彼女は嬉しそうに頷いた。
放課後、自分が誘った相手の元へと向かう。
向かった先へ入れば、相手の姿が。
すぐに近くへ行き、話しかける。
「いきなりごめんね。駿斗に話したいことあってさ。」
そう言い、話題に入ろうとする。
「ごめん、今日人またせてるから手短にお願い。」
きっと彼が言う人は美陽のことだろう。
彼女は今日の帰り、駿斗と一緒に帰り、その帰り道で想いを伝えると言った。
だから僕も、今日あれを実行しようと考えた。
「わかった。じゃあ手短に。」
そう言って更に彼に近付いた。
私は、先程一緒に帰ろうと誘った相手を待つ。
今日こそは、彼に想いを伝えようと決めた。
だから、この機会を逃すわけにはいかない。
彼を待つこと15分。
一向に彼の姿は現れない。
下駄箱に外靴があるため、校舎内にいるのは確かだ。
だとしても遅すぎる。
私は心配になり、探しに行くことにした。
そしてまずは自分の教室へ向かう。
教室前に着き、ドアに手をかけた。
その時
「やめろよっ、落ち着けって。」
「落ち着いてられるかよっ。こんなに、美陽のこと想ってるのにっ。」
そんな会話が聞こえてきた。
声からして、駿斗くんと千知だろう。
私はドアから手を離し、彼らの会話を聞くことにした。
「僕のほうが美陽といる時間が長い。お互いのこともよく知っている。僕のほうが美陽への想いも強い。だから、諦めてよ。」
「嫌だね。いくら一緒にいる時間が長くても、どれだけお互いのことを知っていても、好きなのに変わりはない。諦めてほしいなら真っ向勝負で来なよ。」
「そう、じゃあさ、死んでよ。」
「は?ちょ、やめろよっ」
中で何が起きているのかわからない。
でも、深刻な状況なのはわかる。
私は思い切りドアを開けた。
「何して、んの…」
私の目の前には、ナイフを突きつけている千知と、突きつけられている駿斗くんがいた。
「あーあ、バレちゃった、笑」
そう言って千知は私へ目を移す。
「ちさ、と…?」
そこには私が見たことのない千知の姿があった。
「千知だよ。あ、びっくりしたよね。でも、大丈夫だから。」
彼は私にほほえみながらそう答えた。
「そう、?ところで、さ…何してるの?」
千知の微笑みと彼らの体制の矛盾さのあまり震えながらも彼の行動を問う。
「何って。恋のライバルを減らしてるの。」
今まで聞いたことのないような低い声で彼はそう言う。
正直、彼がこんな人だなんて思っていなかった。
そして、私は聞いた。
「恋のライバルって?なんでこんなこと…」
そう聞けば彼はすぐに答えた。
「僕も、美陽のことが好きなの。ずっと前から。でも、美陽はこいつにしか目を向けなかった。だから今、こんな事になってるんだよ?」
淡々と話す彼は狂気に満ち溢れていた。
「だとしてもなんで、こんなことするのっ?」
そう言うと、彼の表情は一気に変わり、憎しみのような表情に見えた。
「なんで?決まってるじゃん。美陽を振り向かせるため。」
未だ駿斗くんを離そうとしない彼の手は更に力がこもったように見えた。
きっと私への執着心からだろう。
私は二人に近づいた。
「危ないから、離れてて。」
と、駿斗くんは言ったが、今の私にはそんな事を言っている余裕はない。
「そんなことするぐらいならもっと出来ることあるでしょ」
半分哀しみと、半分怒りのこもったような言葉を千知にかける。
そして、千知の手を抑え、ナイフを取り上げた。
「返せっ。殺さなきゃ気が済まないんだよっ。殺さなきゃ、いつまでも美陽に振り向いてもらえないままなんだよっ」
そう言って彼は私の手からナイフを奪い返そうとする。
すると、近くで声がした。
きっと、この騒ぎを聞きつけた先生達だろう。
私は意地でも自分の手からナイフを離さない。
これ以上、千知が加害者になって被害を出さないためにも。
そんなことを思っていれば、先生たちが駆けつけた。
そこからのことはよく覚えていない。
あの事件から数ヶ月。
俺の隣には今、美陽が居る。
彼女はあの日、千知があれ以上加害者にならないためにも、と必死で彼を止めていた。
彼女の勇気があったからこそ、今俺は生きている。
あれから千知は、警察に逮捕され今は刑務所の中だ。
実際、俺も美陽もあんな千知を見たことがなかった。
恐怖でいっぱいだった。
でも、あんな事があったからこそ、俺達が結ばれた。
今後の未来が明るいものと信じて、今ある日々を生きていこう。
私達は恐怖や不安を感じ、ともに乗り越えたからこそ、一緒になれた。
その事を忘れずにこれからも、共に歩んでいこう。
あの経験は決して無駄ではない。
寧ろ、必要な経験だったのかもしれない。
想いのすれ違いだけであんな事が起きてしまう。
想いのすれ違いは仕方がない。
だけど、その想いをどれだけコントロールできるのかが問題だ。
そんな事を考えて
『今日を生きる』
今日を生きる。 あやと @ayato_enym
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