第4話 深夜の小石探し
「一体俺の力石はどこに行った~!?」
深夜〇時。
懐中電灯を片手で派手な普段着のチョメチョメマンは、昼間の内から訪れていた路地を探って力石の在処を捜して回っていた。
「確か、薄くなり掛けた記憶の内だと、ここら辺だったはずだが……」
そう思って彼では懐中電灯をあちこちへ照らす。辺りにくまなく探すが、なかなかそれらしい小石は見つからない。さりとて自分の強大な力を保持している感覚を失われていない。その感覚のみを一縷の望みへ賭けて周辺を探索して行く。あの力石を蹴り飛ばして以来、まだ誰も未だ蹴り飛ばしていないのが分かるのだ。この感覚を得ていることこそ彼の心へ基づいて保証しているものだ。
そして探し続けた末、彼は愕然とした。
道端で五人の不良そうな青年たちが、小石一個の周りを屯っているところだった。
その一人、茶髪で長身の男は、不意で踵を持ち上げ出した。
「待てー、待つのだ~!!」
剛速球になったチョメチョメマンの姿は、足を振り下ろす間近の青年の懐へ飛び込み、その人物と周辺の連れを押しのけて小石を拾い上げた。
「あん、なんだ、テメェ~!」という茶髪長身男はドスの利いた声で立てて、チョメチョメマンの方に睨んだ。
「君たち、何があったか知らないが、小石に当たるのはよくないだろう!」
「お前は何者だ」
「俺は、正義のヒーロー、チョメチョメマンだ!」
「チョメチョメマンだぁ?」
「一体俺たちが小石に蹴り飛ばすことに責められる理由は何かあんのか?」
「そうだな、何故たかだか小石一個のために俺たちは押し退けられなければならなかったんだ? ちゃんと説明しろ」という茶髪長身男が聞いてきた。
「それは……」というチョメチョメマンは戸惑った。ヒーローと言うからには、自分の行動に必要な理念があって当然だ。
そして、彼は周囲の不良たちに、熱い視線を送るとこう言った。
「俺がお前たちの味方に着けて欲しければ、俺の要望をまず受け入れて欲しい。お前たちに何があったか知らないが、たとえ小石一つであっても、それを蹴らないで許せる気心はあるはずだ。その通りならば、君たちの立派な意志を尊いと褒めてあげよう。だから構われたくなければ今すぐ小石へ想いをぶつけるのを止めて欲しい。お前たちを、社会が小石のように虐めるのならば、俺ではお前たちのことを助ける。しかし、そんなお前たちが、小石を虐める社会そのものへさせておけないだろう。お前たちを虐める者を許さない心だからこそ、そうやってお前たちの行為を惨めなままへしておけない気心がこの世界にまだ残されてあるものだ。それだからお前たちの生来のことを想い馳せる俺の配慮を敵へ回して欲しくなければそれが一番良い選択なのだ。ここで潔く立ち去ってもお前たちには何も減る物がないだろう。だから小石一つ守る俺の信念を必要なものとして有難く受け入れて欲しい。俺の心へ応えてくれたら、今回お前たちとはもう対立しないと約束で交わしておこう」
「こいつ、言外に、俺たちを敵へ回せば、俺たちを倒せるという主張のようだな」という不良の一人に敵意が宿った。
「いや待て、小石一つに何熱くなっているか知らないが、面倒くさいからお前のことを放っとくよ」短髪長身男が言った。「お前の言い分は解かる。まさかこの歳で説教されるなんて思わなかったからな。小石はお前の勝手にしろ。さあ行くぞ、お前ら今日はコンビニ行って帰って寝るぞ」
そう言ってリーダー役の茶髪長身男に倣って不良たちは一人、また一人と歩き去っていく。その光景を、不良たちが視界から消え入るまで、チョメチョメマンは見守り続けていた。
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